連日のニュースの多くがコロナウイルス関連ばかりで、すでに食傷気味の読者には恐縮ですが、アメリカでもこのパンデミックは大問題となっています。私も多くの日本の知人から安否確認の連絡を受けました。幸いにも、私たち一家はミシガン州デトロイト郊外で元気に暮らしています。しかし、今やアメリカはイタリアを抜いて、世界で1位のコロナ大国(感染者数 100万人、死亡者 6万人)となり、その死亡者数はベトナム戦争で死亡したアメリカ人総数(5万8220人。国立公文書館による統計)をすでに超えました。
当初、ミシガン州はとても平和でした。コロナウイルス感染症は多くの住民にとって「対岸の火事」であり、3月中旬にはコロナウイルス感染者はミシガン州でたった「2名」。しかし、そこから指数関数的に増加の一途をたどり、それからたった1か月で、2名から今や40000人を超過する感染者と約4000人の死亡者(約1割の死亡率)をあっという間に生み出しました(2020年4月30日現在)。しかも、ミシガン州はアメリカ全50州でコロナウイルス感染による死亡率が最も高い州であり、最も注目を浴びている不名誉な州のひとつです。
私たちの息子が通う小学校は、2020年2月から8月まで休校が決定。この半年もの長い休校が、多くの家庭にさまざまな波紋を投げていることは言うまでもありません。そして、私たち家族が連日のように通っていたアイスリンクは全て無期限閉鎖。今やテレビで “stay home, stay safe” が合言葉として連呼されています。3月には日本から多くの医学生や医師の方々がミシガン小児病院に見学に来てくれたのですが、みなさん見学できずに帰宅となり、申し訳なく感じています。
医療従事者がコロナウイルス感染という危険と隣り合わせで勤務しているのは世界どこでも変わりません。イタリアでは医師 150人以上がすでにコロナウイルスのために亡くなりました。ここミシガン州でも、医療従事者がすでに約10名ほどコロナウイルスのために犠牲となっており、さらにその数は増えるでしょう。
世界がまさに未曾有の過渡期を迎える中、「ポスト・コロナ時代」に起こる変化は何でしょうか。医療に留まらず、さまざまな角度から気づいた展望について、徒然と雑記してみようと思います。
#1. オンライン診療:
コロナウイルスのパンデミックの中、私が勤務するミシガン小児病院(Children’s Hospital of Michigan)もコロナ最前線となり、診療は大きく変化しました。3月からミシガン小児病院は正面玄関を完全に閉じて、医療従事者と患者の入り口を別に設けることで、お互いの感染リスクを減少させる試みを行っています。医療従事者は地下から病院に入らなくてはいけません。そして、全員の検温と体調がチェックされています。私は小児神経科医として、救急外来や入院病棟からの診察依頼(コンサルト)、外来診療、脳波読影などを中心に診療していますが、コロナウイルス感染の可能性が少しでも疑われる患者に対しては、フルガウン・フルマスク(N95マスクにアイゴーグル)を着て診察しています。
著しく変わったのは何と言っても外来診療でしょう。感染拡大を防ぐために、アメリカ全土で「オンライン診療」が推奨され始めました。私も現在は外来患者のほとんどをオンラインで診療しています。画面上を通じて、患者とそのご家族と顔を見ながら話し合い、診断と治療方針を決めていきます。一昔前であれば夢物語でしたが、今はパソコンやスマートフォンの普及で、ほぼどの家庭でも可能となりました。アメリカでは処方箋のほとんどがオンラインで行えるため、患者が直接、病院に処方箋を取りにくる必要はありません。神経科の場合、身体所見が診断への大きな鍵を握る場合があり、それが難点となることがあります。しかし、病状が落ち着いている既知の患者であれば、今のところは大きな問題もなく、オンライン診療で対応できています。そして、カルテ記載も脳波の読影も病院にいる必要はなく、すべてオンラインで可能なので、自宅にいても、依頼されたらすぐにコンピューターを開いて脳波を読影して、その結果をカルテに記載することができます。オンライン診療は日本の医療過疎地にも普及できるのではと期待しています。
「コロナウイルスのせいで、医者は激務で大変でしょう」とよく言われるのですが、それは必ずしも正しくありません。確かに一部の医療従事者(特に救急外来や集中治療室など、コロナウイルス患者に連日「直接」携わる方)は精神的かつ肉体的に大きな重圧がかかっています。しかし、成人、小児問わず、多くの病院で外来患者が「激減」しており、病院の収益上、大問題となっています。患者とそのご家族はコロナウイルス感染を危惧して、病院に足を運びたくありません。さらに、特に小児科の救急外来患者の多くは周囲との接触を制限することで防げる感染性疾患(特に感冒)が主であり、病院に来なくても治っている疾患がある一定数占めていたことも加味しています。全米中の病院で、医療スタッフが「解雇」もしくは「休職」に追いやられています。デトロイトのある病院グループでは、約2500人もの医療スタッフが休職へ、そして約500人が解雇に追い込まれました。
他人事とは思えないこのニュース。私が所属する小児神経科も、今後、オンライン診療を中心にして、いかに外来体制を取り戻すかが、まず当面の焦点となりそうです。
#2. いわた書店の選書サービス
私が海外に目を向けた一因に、故郷の「いわた書店」の存在があります。今はNHKプロフェッショナルなどを通じて、「一万円選書」で全国区となりましたが、私が幼かった頃はよく見かけるような地方の本屋でした。私たち家族はいわた書店の店長(岩田徹様)を「いわたのおじさん」と親しみを込めて昔からずっと呼んでいます。ある日、中学生時代にいわた書店で出会った本がきっかけで海外に興味が湧き、結果としてアメリカで小児神経科医になるに至りました。そのことは過去のブログにも記載しました。
https://ameilog.com/norimitsukuwabara/2018/09/03/100036
このように、いわた書店には私が幼かった頃からずっとお世話になっていました。さらに、父は独歩できていた間、ずっといわた書店に通って、息子たち(父の孫)のために、アメリカまでずっと本を送ってくれました。
https://ameilog.com/norimitsukuwabara/2020/02/07/012909
こうしたつながりを経て、岩田店長のご息女「いわたま」様からも連絡をいただき、先日、いわた書店の公式動画に出演して、オンラインを通じて、本を購入させていただく機会に恵まれました。あえて「普段は手に取らないであろう本」を中心に勧めて頂きました。実質上の「一万円選書」です。ありがとうございました。本が届くのが待ちきれません。動画の中で、「100万円選書」と桁を間違えているのは、無意識に円からドルに変換(1万円は約100$)しているためです(笑)。
https://www.youtube.com/watch?v=jqFs7ctMmRU
今はコロナ災禍の真っ只中で、本屋に行きたくても行けない人が多いのではないでしょうか。そのような方のためにも、いわたま様は「いわたま選書」を開始。すでに応募者が殺到のようです。
http://iwatasyoten.my.coocan.jp/new5.html
読者自身では気づかなかった読む価値がある本を、ともに寄り添って提言することで、読者が自分を見つめ直して、新たな可能性に気づく機会も与えている「一万円選書」と「いわたま選書」。この付加価値がさらなる需要を生み出しています。職種は違うとはいえ、ポストコロナ時代へ向かって、大いに学ぶべきところがあります。コロナ災禍が収束して砂川市に帰省した際には、ぜひまた本を購入に寄らせていただきます。
「したっけね〜」 (北海道弁で 「それではまたの機会に」)
(ポストコロナ時代へ向けて 後編(アイスホッケー)に続く)
ミシガン州は感染者も多く大変な状況とこちらでも報道されております。日々の生活と診療でご苦労されていることと思います。日本も毎日、コロナの話題ばかりで、医療もあわてて対応しようとしているところです。 こういう気持ちの落ち着かない時は先生も言われる様に読書が大事だと思います。本といれば、昨年、先生が出された「チョードリー先生と学ぶ 小児神経画像エッセンシャルズ」は素敵な御本で、親しみやすく小児神経の知見を紹介いただいており、私も利用させていただいております。どうもありがとうございました。
岡 明先生のようなご高名な方からコメントをいただき誠に恐縮です。拙書もご覧いただきありがとうございます。
日米ともにコロナ災禍で大変な時代です。しかし、かのニュートンは17世紀、ヨーロッパの人口の3分の1以上を死亡させたペスト災禍のために、故郷に疎開していた1年半ほどの間に「りんごから木が落ちる」で有名な万有引力の法則を発見しました。
私もポスト・コロナ時代へ向けて自分のできることを着実に積み上げて、日米の小児神経の発展に貢献したいと考えております。今後もよろしくお願いいたします。