「先生、ヒンディ語(インド語)の通訳が手配できません。ので、同意書がとれません」
患者さんの目の前で、ナースに言われてしまいました。
「はい? それは有り得ないでしょ?」
アメリカのある程度の大きさの病院で働いていたことのある方なら、私の同様と混乱がわかると思います。
アメリカは人種のサラダ。誰かがそう言ったと記憶しております。確かに、多種多様の人種が小さなコミュニティを作って併存しているさまは、サラダボウルのようです。基本は英語で、異文化同士が英語を共通語としてお互いにコミュニケートしているのが原則です。原則はそうなんですが、なかなか原則通りに行かない事態に遭遇することも多々。
大変面白いことに、病院内の人種構成が、院外の人種構成とは大きく異なることがあります。小規模、または地方の病院では白色人種(この場合、ユダヤ系がやや多い印象)が医師の大半を占めるというのも未だあるようですが、ある程度の大きさの都市、ある程度の大きさの教育病院では、白色人種の他にインド系、東アジア系(中、韓、日)の比率がぐっと増します。例え街中にほとんどインド系や東アジア系を見かけない都市であったとしても、院内に多くの非白色人種の医師を見かけます。Wikiを見てみると、アメリカの国勢調査の2011年の段階で、白色人種72.4%、アフリカ系12.6%、アジア系4.8%(インド系は南アジア系、中、韓、日は東アジア系としてこの中)となっています。これは、街中の統計です。では、院内では?そんな統計があるのかどうかわかりませんので、身近なフェロー、レジデントでN=1の例をお見せします。ブリガムはボストンというコスモポリタンな大都市にあるため、白人種率はぐっと下がり人種の混合率が上がっています。これはNYやロスアンジェルスなどの大都市共通です。BWH放射線科レジデント&フェロー、2014現在、白色人種60%、アフリカ系2%、アジア系38% (インド系26%、東アジア系12%)となりました。機械と物理を扱うことが多いと思われがちな放射線科のため、ギーク(オタク)が多いアジア系が集中しているのかもしれません。なお、データの根拠は顔写真と名前を見ての私の私的判断ですので、完璧ではありません。
「先生、ヒンディ語(インド語)の通訳が手配できません。ので、同意書がとれません」
「はい? それは有り得ないでしょ?」
「本当です」
「分かりました。5分で見つけてきますから、そのままで。」
その足で隣のセクションに歩いて行き、知り合いの放射線科医に事情を話すと
「あっはっはー。うちのフェローをお貸ししましょう。おーい、シャーシー」
文字通り、5分でヒンディ語を使える医者を確保です。インド系の医者がいない病院、あるいは病棟など見たことがありません。医師側にあまりにもインド人が多いため、通訳の数が少ないのかと疑うほどです。インド系の移住者には英語が流暢な方が多いためかもしれません。