子供と一緒に渡米するとき、アメリカの大学に留学するとき、”ワクチン書類”で困ったことはありませんか? 皆さんの身近で、日米の医療の違いが最もはっきり現れるのがワクチン医療です。アメリカの現場で実際にワクチンを処方し、その効果を日々の診療で感じているあめいろぐのメンバーが、アメリカのワクチンを紹介するシリーズです。
ロタウイルスワクチン Rotavirus Vaccine
ロタウイルスは主に乳児から幼児、更には大人にも下痢や嘔吐の胃腸炎の症状をもたらすウイルスです。日本ではノロウイルスがよく話題にのぼりますが、実はロタウイルスは、最も多い食中毒の原因ウイルスと報告されています。幼い乳児が感染すると脱水症状がひどく、入院になることが多くあります。アメリカではワクチンが一般的になって、ロタウイルスの発生件数は激減しました。ワクチンが施行される前までは、50人ほどの5歳以下の子供たちが一年間で死亡していたそうです。それがワクチン施行後は殆ど見なくなるほどの成果を収めました。
乳児の胃腸炎は、稀にですが深刻な状態をもたらします。実際、アフリカなど設備の整っていない地域では、感染による胃腸炎が乳児の死因の多くを占め、日々たくさんの幼い命がなくなっています。これは極端な例ですが、一般的に言っても、幼い子供の胃腸炎を防ぐということが、どれだけ重要かが伺い知れると思います。
アメリカで最初のロタウイルスワクチンは、”腸重積”という腸が折り重なってしまう重篤な病気を引き起こす可能性が見つかったため接種が撤回されました。普通であれば3万人に1件の確率で起こる腸重積が、ワクチン接種者では1万人に1件起こったという、ごく稀な副作用でした。しかし、その後すぐ新しいワクチンが開発され、そのワクチンには腸重積の危険性は無いと確認されています。
このワクチンは、子供に投与されますが、実は大人たちの世界にも大きな利益をもたらします。アメリカの調査によると、ワクチン施行後、ワクチンを受けていないのにもかかわらず、大人たちのウイルス感染件数が減っていることがわかりました。子供たちをワクチンで免疫することで、社会全体への負担を減らすことに成功したと言われ話題になりました。
このワクチンは唯一の経口ワクチンで、乳児でも簡単に飲めます。2ヶ月時から始めます。ロタリックスとロタテックの2種類があり、ロタリックスは4週間隔で2回、ロタテックは4週間隔で3回接種します。日本ではどちらも最近認可されました。私が研修医のとき務めていた日本のクリニックではロタテックを処方していましたが、どちらが主流かはまだはっきりしていないようです。
以下は日本語のワクチン案内です。とても詳しくわかりやすく紹介されていますので、ご参照ください。
浅井先生 初めまして。以前に臨床留学MLでご意見をいただいたことがあります。岸和田市で小児科医をしている桑原功光ともうします。
ロタリックスは日本でも今年1月から販売開始されましたが、いかんせん、何といっても問題がその費用ですよね。普通に打つとおそらく3万円前後かかり、一般の家庭ではなかなか手の届かない費用です。。。公費で認可されない限り、日本では普及はまだまだ先の話ですね。。。
アメリカではロタリックス/ロタテック、その使い分けはどのようになっていますか? ロタテックの方が多価ワクチンなので予防効果が高そうな感じがしますが、いくつかの論文では効果に大差がないことが報告されているかと記憶しています。 浅井先生の周囲ではどちらのワクチンがより使われていますか?
すみません、間違えました。
ロタリックスがすでに昨年11月に認可されていて、ロタテックが今年1月より認可ですね。
ちなみに当院ではさすがにこの値段のせいか、誰もまだ希望者がいません。。。
コメントありがとうございます! 私が研修医の頃は、ロタリックスを使っていました。と言っても、ロタテックとロタリックスの選択は、研修医の裁量ではなく、病院が決めたことでした。保険のカバー率とか、原価の関係で決められていたと思います。どちらも特に差はなく、同等に使われているような感覚です。アメリカでは、ワクチンは保険が全てカバーし、患者には負担はゼロです。もともとワクチンは社会全体で接種して初めて根本的な効果が得られるので、社会保険政策として実施しないと片手落ちになります。日本でも、小児学会が主導して、ワクチン政策の見直しが始まっていると聞きます。今後の展開に期待したいと思います。