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米国の医療に憧れ、渡米後研究者から臨床医に転身。フィジシャンサイエンティストを目指すが、その後、妻が米国での内科研修を開始したため、家庭のサポートに回ることを決意。子育てにも積極的に参加。現在、日系人の多いカリフォルニア州モントレー郡で、心臓病診療に従事。内科医の妻と子供二人の四人家族。研修終了後の医師の生活、家庭のあり方、子育てなど、米国の生活に密着した情報をお伝えしたいと思います。

齋藤 雄司

新潟県出身。新潟大学医学部卒業後、同大学内科研修、大学院修了。血管生物学の基礎研究に従事するためポスドクとして渡米。その後、ロチェスター大学関連病院内科レジデント、カリフォルニア大学アーバイン校循環器フェロー、カリフォルニア大学サンディエゴ校心臓電気生理フェローなどの臨床トレーニングを行う。バッファロー大学内科クリニカルインストラクターを経て、現在は、カリフォルニア州モントレー郡の開業循環器グループに所属。不整脈を含む心臓病診療に従事する。

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2013/08/23

身をもって体験したアメリカ健康保険の大問題

(この記事は、若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に寄稿されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

カリフォルニアの夏は爽やかで過ごしやすく、日本の夏の風物詩である「怪談」とは縁がほど遠い場所です。しかし、カリフォルニアと言ってもアメリカの一部である限り、日本では考えられない健康保険の「怪」はつきまといます。アメリカで私が臨床を始めてから、早くも12年がたちましたが、アメリカの保険制度は複雑怪奇で未だに理解不能です。患者さんの加入している保険によっては、カバーされない検査や薬剤があるため、「あなたの保険は何ですか?」という質問は日常茶飯事です。最初は「こんなことを聞くの失礼じゃないかな」と思っていましたが、これを聞かなくては仕事にならないので、いつ頃からか何とも思わなくなりました。

さて、最近私が経験したアメリカの医療保険の背筋の凍るような?怖い話です。私は渡米以来つい最近まで、自分個人で健康保険に入ったことはありませんでした。雇用者(研究所、大学、病院など)が自前の保険に加入させてくれていたからです。当然、掛け金がいくらかなのかも知りませんでした。今回カリフォルニアに引っ越すまでの3年間は、妻の内科研修先のバッファロー大学が、家族の分も丸抱えで保険に加入させてくれたので、私はありがたく妻の「扶養家族」として大学の保険に入れてもらっていました。ところが、妻の研修終了とともに保険が打ち切られてしまったのです(まあ、当たり前ですが)。

私はその頃、ちょうどカリフォルニアの新しい職場に移ったばかりだったのですが、最初の3カ月間は職場の健康保険に入れないという規則があり、自分個人で健康保険会社と契約する必要が生じました。とりあえずは、「コブラ」と呼ばれる失業者用のつなぎ保険(職を失ってから数カ月間は、掛け金を自分で払えば、失業前と同じ条件の健康保険を維持することができる制度)に入ることにしました。契約書を見たら4人家族の掛け金は月額9万円!「うわっ、こりゃ高い!」と思いましたが、どうすることもできず、このような高額費用を払っていてくれたバッファロー大学にただ感謝するばかりでした。

ところが1カ月程経った頃、「コブラ」の保険会社から一方的に保険を打ち切られてしまったのです!理由は、「掛け金未払い」。「請求書も送ってきていないくせに何勝手なこと言ってるのよ!」と怒り狂う妻を尻目に、私は新しい健康保険プランを探すはめになりました。インターネットで個人用の健康保険を探してみると、4人家族が月額10万円以下で加入できるような保険が無いのです!大学がカバーしていてくれたのと同じ条件の保険を維持するとなると、掛け金はなんと月額30万円!!「なにー、そんな金がどこにあるんだ!」という訳で、最低の「格安プラン」に入ることに。それは、緊急の場合のみ(救急室受診や緊急入院など)カバーし、通常の外来通院などはカバーされないという代物でした。しかし、そのような「格安プラン」でさえ掛け金は月額15万円!かなりショックでしたが、アメリカで無保険のままでいる勇気もなく、泣く泣く加入を決意しました。

しかし、不幸は続きます。私たち夫婦が不在の間、友人宅に預かってもらっていた次女が体操練習中に着地失敗し右足親指打撲。何日経っても腫れが引かず、心配した友人宅のお母さんが、医者に連れて行こうとしたのですが、この格安保険の患者を診てくれる医療機関が近所に無いことが発覚!受け入れ先が見つかるまで、本当にたくさんの医療機関に電話しなければならなかったそうです。

ほっとしたのも束の間、今度は、長女の友人のメアリーから電話がありました。なんでもその日、ハンモックから落ちて頭を打ち、左首から腕にかけてしびれがあるとのこと。無保険なので、救急室には行きたくない。友人の両親(私と妻)が医師だということを思い出し、アドバイスを求めて電話をかけてきたというのです。「いやー、救急室に行きたくない気持ちは分かるけど、頸椎骨折だったりしたら麻痺が出る可能性もあるし、お金のことはともかく救急室に行った方がいいよ!」という分かりきったアドバイスをするしかありませんでした。アメリカの医療費が高いことはよく知られていますが、健康保険の掛け金も相当高額で、支払えない人がいるのも十分理解できます。カリフォルニア住民の40%が無保険という事情も納得できます。アメリカの健康保険は、普通の人にとって「高嶺の花」なのです。

さて私と言えば、先日ようやく3カ月間の猶予期間が過ぎ、家族そろって勤務先の保険にめでたく加入させてもらうことができました。健康保険に入ったからといって、事故や病気に注意しなくて良いということではありませんが、精神的に気分が楽になったのは確かです。後日談ですが、次女の右足親指は骨折でしたが、手術が必要なかったのは幸いでした。ハンモックから落ちたメアリーは、結局救急室へ行かなかったものの、その後麻痺も出なかったそうで一安心でした。日本の国民皆保険は存続の危機が叫ばれているようですが、国民だれもがいつでも医療機関を受診できるこのシステムは、世界に誇れるすばらしい制度です。これは、アメリカで生活したことのある人ならば、すべての人が賛成するでしょう。乱用を避け、制度を疲弊させないよう国民全員で取り組まないと、日本も将来アメリカと同じようになってしまいます。それは本当に本当に恐ろしいことです。

6件のコメント

  1. 今井あゆみ より:

    カリフォルニアでオートバイ事故で骨折したとき、救急車の中でEMTに「点滴は一本700ドルするからSaline Lockでいい!」と交渉してる自分も悲しかったですが、その後保険の契約内容をめぐり、病院をたらい回しにされ、足が折れているのにGeneralDoctorの紹介状を取ってこいと言われたり、悪夢のような体験でした。患者になってみなければわかりませんね。さらに請求書が届くのは何ヶ月も先。その間、保険が救急車の出動費用を賄うのか、一体ERでの処置や検査はいくらか買ったのか、その請求を考えると骨折の痛み以上にストレスフルでした。アメリカ・・・荒野です。

    • 齋藤 雄司 より:

      それは大変な経験をされましたね。おっしゃる通り、本当にアメリカって怖いです。日本人は自分たちがどれだけ恵まれた医療環境の中にいるのか自覚しなくてはなりませんよね。

  2. 田中フミ より:

    アメリカは高額な医療費と聞いた事が有ります。
    今テレビでデンゼル・ワシントンが出演のテレビを見て居ます。
    最低限ので、低所得の一ヶ月分にアホか!!!
    と、叫びたくなりました。
    アメリカ行くほどの高学歴でなく、ホっとしました。

    • 齋藤 雄司 より:

      病気になったときに医療費を心配せずに安心して医療を受けられるというのは、日本の本当に素晴らしいところです。

  3. ゆき より:

    現在カリフォルニアに住んでおり、同じようなことで大変困っています。大学に指定された保険に半年分入っていたはずが、なぜかその半分の3ヶ月間の保障になっていました。保険会社曰く半年プラン加入後に変更があったとか。。。変更なんて見に覚えのないことですし、変更後の返金の形跡は親の講座を見ても見当たらず。「時間が経ちすぎると自己負担になります」と30万円近い請求を渡され。。。両親に払ってもらうつもりはないし、でもこちらでバイトもできないしで。。日本ではこんなのあり得ないですね。

    • 齋藤 雄司 より:

      それは大変な経験をされましたね。アメリカでは保険会社との交渉は本当にストレスフルです。これは、日本人に限ったことではなく、アメリカ人も同じです。どうかめげずに頑張ってください。それにしてもこの医療費の高さはなんとかならないものかと思います。ちょっと、常軌を逸していますよね。

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