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齋藤雄司

ブログについて

米国の医療に憧れ、渡米後研究者から臨床医に転身。フィジシャンサイエンティストを目指すが、その後、妻が米国での内科研修を開始したため、家庭のサポートに回ることを決意。子育てにも積極的に参加。現在、日系人の多いカリフォルニア州モントレー郡で、心臓病診療に従事。内科医の妻と子供二人の四人家族。研修終了後の医師の生活、家庭のあり方、子育てなど、米国の生活に密着した情報をお伝えしたいと思います。

齋藤雄司

新潟県出身。新潟大学医学部卒業後、同大学内科研修、大学院修了。血管生物学の基礎研究に従事するためポスドクとして渡米。その後、ロチェスター大学関連病院内科レジデント、カリフォルニア大学アーバイン校循環器フェロー、カリフォルニア大学サンディエゴ校心臓電気生理フェローなどの臨床トレーニングを行う。バッファロー大学内科クリニカルインストラクターを経て、現在は、カリフォルニア州モントレー郡の開業循環器グループに所属。不整脈を含む心臓病診療に従事する。

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二ヶ月後ほど前に、ニューヨーク州からカリフォルニア州に引っ越してきました。開業医グループに所属し、不整脈を含む心臓病診療をしています。以前、カリフォルニア大学でフェローをしていたので、カリフォルニアに住むのは四年ぶりです。「空ってこんなに青かったのか」などと能天気な言葉を発しながら、久しぶりのカリフォルニア生活が始まりました。

さて、今回私が経験した引越に伴うペーパーワークの話しです。まずは医師免許です。アメリカの医師免許は、州政府が発行します。ですから、州を越えて引越するときには、州免許も取り直さなければなりません。USMLE Step3まで終了していれば、原則的にはそれ以上何の試験も受けなくても、書類審査だけで免許が発行されます(テキサス州など一部の州を除く)。しかし、それでも手続きは簡単とは言えません。申請に必要な書類は多く、日本の医学部時代の成績証明まで提出しなくてはなりません。日本の医学部教務係と連絡を取ったり、書類を送ってもらったりと、順調に行っても2−3ヶ月はかかります。私はフェロー時代にカリフォルニアの免許を取得済みで、しかも、ニューヨーク州で働いていた頃にも、二年ごとに約八万円!もの更新料を払いながらその免許を維持していたので(将来はカリフォルニアに帰ろうと思っていたので)、今回のカリフォルニアへの引越も医師免許に関しては何も問題ありませんでした。

しかし、医師免許だけではアメリカの病院で働くことはできません。他に、DEA certificate、医療過誤保険、その病院で働いて良いという許可(Privilege)、各健康保険会社との契約などが必要です。DEA certificateは、アメリカで処方箋を書くために必要な資格ですが、これは医師免許を持っていればお金を払って簡単に取得できます。医療過誤保険も今までの医療事故の有無を申請してお金を払うだけなので手続きは比較的簡単です。問題は、Privilegeです。Privilegeは、日本にはない概念だと思います。日本では、医師免許を持っていればどの病院でも飛び込みでバイトなどができますが、アメリカではそうはいきません。病院ごとに各医師の技量を審査する委員会があり、その人のトレーニングや経験に基づいた診療しか認めません。例えば、私の場合は心臓病部門でも不整脈専門なので、アブレーションやペースメーカーの植込みは認められていても、心臓カテーテル検査などを施行することは病院側から許可されていません(日本では、内科研修医が眼科検診のバイトに行ったりしているのを見たことがありましたが、それは異次元の世界の出来事と言えましょう)。Privilege申請のための提出書類も膨大です。以前働いたことのあるすべての病院から、過去に行った診療、手技、手術の総記録を取り寄せなくてはならず、大変骨が折れます(レジデンシー終了直後なら、職歴がないだけ楽です)。バックグラウンドチェック(犯罪歴など)なども行われます。病院ごとに申請書式も違うので、新規に複数の病院のPrivilegeを取りたいときには、同じような分厚い書類を繰り返し書き続けなくてはならず、本当に発狂しそうになります。このPrivilege取得にも最低2−3ヶ月はかかります(しかも病院ごとに約五万円の審査手数料を取られます)。さて、医師免許、DEA certificate、医療過誤保険、Privilegeが取れるとようやく病院で働くことができますが、それだけでは、ただ働き同然です。皆が公的保険に入る日本と違い、アメリカで保険診療をするためには民間の健康保険会社と個別に契約する必要があります。メディケア、ブルークロス、シグナなど各種保険会社との契約が結ばれて初めてアメリカで医師として『食べて行く』ことができます。このプロセスにも1−2ヶ月を要します。

これらの手続きは余りに煩雑で膨大なので、大体どの病院にもそれらのペーパーワークを助けてくれる専門の事務員がいるほどです。私は、2012年12月の終わりにカリフォルニアの病院で働くことを決め、すぐに書類手続きに入りましたが、カリフォルニア医師免許は既に持っていたにもかかわらず、それでもある程度の目処がついてカリフォルニアに引越しできたのは2013年3月の終わり頃でした。州医師免許も新規に取得しなくてはならない場合は、更にもう三ヶ月、合計六ヶ月ほど準備に必要でしょう。州を越えた転職は、本当に、本当に、疲れます。私はもう二度としたくありません。もし、将来ここに住みたいという州があるのであれば、最初からそこでトレーニングを開始して、『引越しない』というのが今回私の得た教訓です!

5件のコメント

  1. はじめまして!!
    あめいろぐにようこそ。
    カリフォルニアとテキサスとフロリダの免許は取りにくく失いやすいと聞いたことがあります。
    ニューヨークもカリフォルニアも日本人の多いところですね。
    日本語の通じる先生が近くにおられてさぞかし皆さんも嬉しいでしょう。
    カリフォルニアでオフィスをかまえられている日本人のある先生がこんなことをおっしゃっていました。
    オフィスには何百万円もするような絵画を飾り、診察する時は必ずスーツとネクタイ、運転する車はメルセデス、そうしないと日本人の患者さんにアピールできない?とか。
    スクラブで駆け回って中古の車乗り回している私はびっくり!!
    アメリカ人やメキシコ人の患者さんが100%なのでステータスはあんまり関係ないと言いますかこの違いは大きいですね。
    日本人はブランド思考?選ぶ医師もブランドで??
    とにかく莫大なペーパーワークお疲れ様でした!!

    • マーティン先生、コメントありがとうございます。先生のが初コメントです。実は私は先生の個人ブログにコメントを送ったことがあるんですよ。匿名でしたが、『ハロウィーンの日に自宅に用意しておいた配布用の150個のキャンディーパックがあっという間になくなった』などという他愛もないコメントでしたけど。カリフォルニアでも、ビバリーヒルズのオフィスなどでは先生のおっしゃるようなこともあるのかもしれませんが(でもかなり誇張されていると思いますが)、私のいるモントレー郡では、そんなことはまったくありませんよ。私もスクラブで診療してますし、乗ってる車もカローラです。もっとも、サンフランシスコなどのベイエリアからは結構遠いので、日本人はほとんどいませんが。日本の名前の人は結構いますが、ほとんどは戦前に入植した日系人で、日本語は話しません!カリフォルニアといってもエリアによって全然違います!!

  2. 齋藤雄司様、びっくりです。たった今メールを送ったばかりで、なんとこのサイトでもつながってしまいました。奥様とともにお医者様であったのですね。なんとなく、そんな気はしていましたが。

    マーティンもと子様のコメント、ブランド志向から程遠い私はびっくりです。病院は、まずは清潔感があるかどうかが私のチェックポイントですが、人によって、さまざまなのですね。

    • 洋子様、ブログへのコメントありがとうございます!たしかに、病院の清潔感はとても大切ですよね。受付の人の対応も病院の好感度にかなり影響するようです。ちなみに、私の妻は極端なアンチ高級志向で、ベンツなんか一生死んでも乗らないと言い張っています(とういか、お金がないから乗れないでしょう)。本当に人それぞれだと思います!

      • うふふ、敬子さんおもしろいですね。実は私もそんな感じです。そもそも興味ゼロだから、言い張るという前に、話題として口からベンツとかいう言葉すら出ないという感じです。最悪な場合、”ベンツって何?”といいかねません、私。それにしても、病院と高級装飾品、正直、理解に苦しみます。”絶対に、きらびやかに外見思考の病院へは行かない!” 私も今日から敬子さんナンバー2です。よろしくお伝えください!!

        アメリカの病院は、日本のような、すっきりとした整った、しかもちょっとかわいさ、温かさのある空間がない様に思いますが、その違いはどこから来るのかと、何度か思った事があります。

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