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最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田 篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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2013/12/01

臨床現場の視点を学ばせる米国の予防医学プログラム

(この記事は、2013年3月4日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

米国で予防医学を学ぶには、主に2つの経路がある。メディカルスクール卒業後に1年のインターンシップを修了するだけで応募できるレジデンシーに入るか、プライマリ領域(内科や家庭医学など)でレジデンシーを修了してからでないと応募できないフェローシップに入るかだ。他の領域でレジデンシーを終えた後、もしくはさらに経験を積んだ後に予防医学レジデンシーに入る人もいるが、いずれにせよ予防医学専門医を取得するには、レジデンシーかフェローシップのどちらかを修めないといけない。

予防医学研修は総合予防医学、産業医学、航空医学、公衆衛生学の4つの専攻に分かれ、全てを合わせると全米で70ほどのプログラムがある。それだけの数があるにも関わらず、フェローシップを提供しているのは、私が所属するメイヨークリニックの他には2つしかない。メイヨーの予防医学フェローシップの目的は、臨床経験を土台に持つ医師に予防医学を学ばせ、広い視野を持ち医学界に限らず幅広い分野で活躍できるリーダーを輩出することだ。

私は、プライマリ領域で最低3年間の経験を積んでから予防医学を学ぶというシステムを合理的だと思っている。予防医学は前回述べたように、医療現場に新たな視点をもたらす可能性を秘めている。それと同時に、臨床現場とはやや異なる問題解決手法を用いる。従って、やり方に気をつけないと医療現場の感覚からかけ離れる危険性がある。

 

机上の論だけでは介入は成功しない

例えば、喫煙率を下げるための取り組みを考えてみよう。医師による簡単な禁煙指導は、軽微であるが禁煙成功率を上げることが研究で示されている。予防医学の観点からすると、もしそれが費用対効果で優れていれば、喫煙者に対する禁煙指導実施率を上げることで、効果的に禁煙を推進できると推測される。またその実現度を高めるため、医師が適切に禁煙指導したかどうかをチェックする仕組みを導入することが考えられる。

実際にNYの病院では電子カルテに「喫煙状況を聞いたかどうか」「喫煙者に禁煙指導したかどうか」を医師がチェックする項目があった。そのため、その実施率を病院側がモニターすることも可能だ。禁煙指導実施率を高めるための最も単純な介入としては、禁煙指導の実施を必須とし、実施率に応じてボーナスを出すなどの方法が考えられるだろう。

しかし、まず間違いなくこの方法はうまくいかない。

少しでも経験のある医師なら、喫煙者の全員に禁煙指導することはナンセンスと思うだろう。患者それぞれで禁煙へのインセンティブには大きな差があり、禁煙に対する興味が全くない患者に禁煙指導しても効果はない。加えて、簡単とはいえ時間の掛かる禁煙指導よりも、腰痛の悪化やコントロール不良の血圧など、その場で解決しなければならない重要事項があることを知っている。

それでも無理にその仕組みを導入した場合、実際に禁煙指導をしていなくても、「禁煙指導しました」とチェックボックスをチェックする医師が多数出てくるのがオチだろう。これはちょっと極端な例だが、臨床を理解していないと、こういうところで効果的な予防医学的介入の設計に失敗する場合がある。

 

公衆衛生学修士の学費は無料

プログラムは2年間の予定で、1年目にミネソタ大学で公衆衛生学修士(Master of Public Health、MPH)を取得する。学費は全額メイヨーが支払う上、学期中はフルタイムの学生として勉強しているだけで給料をもらえるので、なんともありがたい。

1年目の授業のない期間と2年目には、ローテーションを通じて様々な経験を積む。メイヨーでは予防医学の臨床的な側面を重視し、循環器科、代謝・内分泌科、乳腺科などに加え、旅行医学、産業医学、栄養学、患者教育の外来もローテーションに組み入れられている。また公衆衛生学を学ぶため、郡や州の衛生局や環境医学の現場にも出向いて実地訓練を受ける。

さらには、医療の質向上(quality improvement)にも力を入れており、クリニック内に設けられている専門部署で研修を受け、例えば外来診療プロセスの効率化など、最低でも1つのプロジェクトを担当することになっている。他に、研究の時間も多く確保されており、自分の興味のある分野で研究活動することが全面的にサポートされる。

こう書くとなんだかプログラムの宣伝をしているように見えるが、実際その通りだ(笑)。私自身、日本ではなかなか学べない分野をこうして学ぶことができ、非常にエキサイティングな毎日を過ごしつつ、与えられた環境に深く感謝している。

2件のコメント

  1. 伊藤 より:

    はじめまして、私は現在研修医を修了し医師3年目です。
    もともと、動脈硬化と糖尿病に興味があり、研究の道に進みたいと思っております。
    ミクロな研究だけでなく、マクロな視点としての動脈硬化と糖尿病は生活習慣に介入をすることだと考えています。ただ、これを体系的に学びたくて、いろいろ探している時に先生のブログで紹介されていた予防医学に興味を持ちました。
    実際に研修されている先生に質問があります。
    ・動脈硬化、糖尿病への生活習慣介入についての研究はありますか。
    ・肥満、睡眠に関した予防医学というのもあるのでしょうか。
    ・研修修了後の進路はどういったものがありますか?
    ご多用中のところ大変恐縮ですがご教示いただけたら幸いです。
    よろしくお願いいたします。

    • 反田 篤志 より:

      どうもコメントありがとうございます!以下参考にしていただけると幸いです。

      ・動脈硬化、糖尿病への生活習慣介入についての研究はありますか。
      >もちろん、RCTも含めて色々ありますよ。予防医学的観点からは、ClusterやPragmatic designが現実世界をより反映しており、面白いものが多いです。DMの方が充実しているかと思いますので、PubMedでlifestyle intervention, diabetesなどと検索してみてください。成書の糖尿病や動脈硬化のセクションにも、生活習慣介入の項目は必ずあるはずですから、参照されることをお勧めします。

      ・肥満、睡眠に関した予防医学というのもあるのでしょうか。
      >もちろん、肥満や睡眠も予防医学にとっては重要な領域です。どちらも疾患においては”上流”の部類(心筋梗塞など、肥満などにより最終的に陥る疾患は”下流”に位置すると考えます)に位置しますので、予防医学的介入が重要になります。こちらもLifestyle interventionが重要ですので、上と同様に調べてみてください。

      ・研修修了後の進路はどういったものがありますか?
      >日本で予防医学を体系的に学べる研修は寡聞にして存じ上げないので、米国での研修と仮定して話を進めます。米国での予防医学修了者は、大別すると、世界機関(WHOなど)、合衆国政府(CDCやFDAなど)、州・地方政府(保険局など)、病院・クリニック(経営者、ディレクターなどとして)、企業(保険、製薬、メディアなど)など、進路は幅広いです。日本では確立されたキャリアはなく、なかなかイメージしづらいかもしれませんが、政府、自治体、企業などにニーズが高いのではと考えます。

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