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放射線科の臨床留学や耳慣れない&見慣れない放射線科医の日常をお知らせできればと思います。

鈴木 ありさ

Bostonのブリガム病院にて放射線科医をしています。インターンもレジデントもすっとばしてフェローから始め、指導医3年目にアメリカの放射線専門医を取得しました。上がやめないので新人が入らず、万年下っ端です。

鈴木 ありさのブログ
2011/12/17

静脈確保にみる医師という資産活用

「どうして次の患者さんが入室してこないの?」
「静脈が確保できていないので、患者さん入室できませーん」

 

「造影MRI(あるいはCT)をとりたいのですが、血管確保ができなかったのであきらめました。なので、この画像の診断的価値は保障できません」
(と、堂々とカルテあるいは読影レポートに書いてある)

 

アメリカの病院には、末梢静脈確保を専門とするナース (IV Nurse)というナースがいます。大抵の静脈確保は病棟あるいは外来のナースがやってくれます。たっぷりとした皮下脂肪をもった丸々とした腕などに隠れた、あるいは埋もれた末梢静脈に病棟のナースたちがてこずった場合、このIVナースが呼び出されます。お給料も普通のナースよりも若干よろしいようです。

医師が静脈取りに呼ばれることもありませんし、ナースもそれを期待していません。そもそもアメリカの医学教育では、静脈から何を入れるのか(治療内容)を決定するのが医師の仕事であると明確に教えられています。アメリカで医学教育を受けた医師のうち、実際に静脈確保ができるのは小児科医と麻酔科医とアメリカ国外から来た医師たちぐらいではないでしょうか? 実際、周りのレジデントに聞くと学生時代あるいはインターン時代にに数回やったことある、程度の経験のようです。

時間給の高い医師を医療に徹底させ、効率よく利益を上げるために、医師を医療に専念させるというのはこの国ではかなり徹底しています。医師が決定する医療方針によって治療が行われ、医療機関はその治療によって売り上げをだします。ナースやコメディカルによっても可能な作業に医師の時間を使うことを無駄だと思われています。日本の手術室やアンギオ室では、執刀医あるいは助手の医師が術場を消毒をして清潔領域を作ってゆくのが当然ですが、アメリカではあまり見かけません。それは技師さんあるいはNP,PAの仕事だからです。利益確保にシビアな民間病院では、動脈に入ったシースを抜くことすら医師の仕事ではないことが多々あります。医師自身がシースを抜くと約20分は医師が使い物になりません。それよりも隣の部屋を準備させて医師は次の症例を行い、術後の回復室で医師でない者(NPあるいはPA)がシースを除去し20分間の用手圧迫を行うほうが、医師を二名雇うよりも経済的に効率が良いのです。限られた、しかも給料というランニングコストの最も値が張る医師と言う資産をもっとも有効的に活用するには、医師にしかできない意思決定や手術に彼らを専念させ、医師でなくてもできる仕事を一切させないことが非常に重要なのです。

ですから、上記のような会話が堂々と成り立つのです。
「どうして次の患者さんが入室してこないの?」
「静脈が確保できていないので、患者さん入室できませーん。IVナースを呼んでまーす」

この後の展開は2パターンに分かれます。
1. 45分後(彼女たちは忙しいので最低これぐらいは見積もらないといけない)、IVナースによって血管が確保され、予定より大幅に遅れて患者さん入室。
2. 60分待った挙句の上に、IVナース失敗しました~、と暢気な声の報告を受けて、待っているチームが大きなため息をつく。で、どーするのよ?という空気が手術控え室に流れる。

 

日本で研修を受けたことのある医師がいる場合、これに第三のパターンが加わります。
「血管確保ができないから入室できない? はぁ? IVナースがあきらめた?? 患者さんはどのベッド? 20番? じゃ、ちょっと行ってくるから、入室準備進めてください」

10分経過。
「先生、ライン入りましたー?」
「当たり前です。IVナース分の給料出ませんかね?」
「残念ながら、出ません」

これをあまりやりすぎると、時折、ナースたちの熱い視線を浴びることになります。準備室がちょっと困っているみたいなんですよねぇ、IVナースは呼ぶのに時間かかるし、このままだといつ入室できるかわかりませんねぇ、と意味ありげなことを言い出します。
「ハイハイ、行きますよ。で、何番のベッドですか」

「こんにちは、私は鈴木医師です。点滴を入れたいと思いますので、腕を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
医師に血管を確保されると思っても見ていない患者さんたちは、ぎょっとします。え? 先生が出てきちゃったの? 大丈夫ですか? やったことありますか? という視線を向けてきます。
「大丈夫です。三回以内に入れます」
これは患者さんを安心させるとともに、自分へのプレッシャーでもあります。
現在のところ何とか三回以内で抹消血管を確保をしていますが、この記録を破る強敵がこの国には沢山いそうです。

2件のコメント

  1. 藤林 保 より:

    日本人医師頑張っていますね。技術を磨く事は大切ですが、特定の人しか出来ないようにすると色々問題がでてきます。ベテランでも失敗はあります。不調の日もあります。そのときには気軽に別の人が試みられるようにしておくと、患者さんには嬉しいですよね。専門の人が出来ない技術を披露するのはきっと快感でしょう。

    • 鈴木 ありさ より:

      藤林先生、
      おかげさまで何とか生き残っております。研修医時代に朝の6時半から採血回診をしていた成果と思います。意外なところで役に立つ特技になりました。続けて行っていないと腕が鈍るので、最近は準備室に積極的に顔を出しています。

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