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Dr.Yumi

ブログについて

研修を終えてスタッフとして働き出してからは、アメリカ医療の現実をさらに実感するようになりました。よいところも悪いところもあるアメリカの医療の日常に、循環器のホットなトピックを交えて発信していきたいと思います。

Dr.Yumi

名古屋大学医学部卒業後、1年間のスーパーローテ研修を経て、アメリカにて臨床研修開始。内科レジデンシー、循環器フェローシップ、循環器インターベンションフェローシップを終え、現在ニューヨークのMount Sinai Beth Israelにてスタッフとして働き6年目。専門は循環器、特に心臓カテーテル治療。2人の娘の子育てと仕事に奮闘中。

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アメリカでは保険がない患者さんもけっこういて大変だという話を前回書きましたが、それでは民間保険を持っていれば安心かと言うと、アメリカの民間保険もこれまた問題が多いのです。民間保険には何十もの種類がありますが、それぞれの保険会社が医師や病院と契約して、支払う検査や治療、患者の負担額、医師や病院に払われる額を決めているので、自分の保険会社と契約している医療機関を受診しないと全く保険がきかない事もあります。また、緊急でない検査には前もって許可を取る事が必須となっているのですが、なかなか許可されず検査が延期になったりする事もよくあります。

私が病棟を担当する月には、私のところにも”Approval letter”や”Denial letter”が次々と送られてきます。前者は保険支払いが認められたとの旨を、後者はそれが認められなかったとの旨を伝える保険会社からの手紙です。「OOさんの入院は必要と判断されないので許可されず、保険からは支払いはされません。異論があればこちらへ連絡を。」「XXさんの入院は2泊だけ許可されました。それ以上必要であればまた申請してください。」などなど。これらの保険会社との交渉は、医師ではとても手が回らないため、病院では保険会社との対応を専門に行うスタッフを何人も雇っています。私の病院のカテ室だけで3人ほどいるでしょうか。私の友達は10人のグループ開業をしていますが、ドクター1人につき保険の対応をするスタッフが1人ついていると言っていました。それだけ、保険会社との対応をしっかりするかで収入が変わってくるという事なのですが、これらの人件費はもちろん医療費に加算されています。

さて、外来に行くと、今度はどの薬が保険で支払われるかが保険によって全く違うという事実に気付きます。外来後に薬局に行った患者さんから、この薬は保険で支払われず自腹になってしまうから他の薬に替えてほしいとの電話が毎日のようにかかってきます。私にとって今月の朗報は高脂血症剤、リピトール(r)がついにジェネリックとなる事です。心筋梗塞後は高容量のリピトールが標準治療となっていますが、今まで「リピトール(r)は保険がカバーしないので、高くて買えない」と言われ、薬の相互作用が問題になっているSimvastatinに切り替える事がけっこう多かったのです。ジェネリックであるSimvastatinはどの保険でも支払われますが、LDLコレステロールを治療域まで下げきれない事が多くて苦労します。

先日は心筋梗塞で入院してステント治療をした90歳の患者さんが、今まで健康だったため薬の処方の保険の手続きをしていなかったようで、退院してから処方された薬に$500払った、と言うので驚きました。何も言わずに、高いから薬は買わない事にしたという患者さんもいるので、どの薬が安いか、どの薬が保険でカバーされているかを知っておかないと、治療しているつもりでも治療していない事になりかねません。先日も心筋梗塞後の患者さんが禁煙したいと言うのでニコチンパッチを処方したら、保険でカバーされないとの事でしたが、国をあげての禁煙キャンペーンが冗談のような保険制度です。

新薬は基本的に値段が高く、保険でカバーされるようになるのに時間がかかるため、認可されたばかりの薬は処方する前に保険で支払われるかの確認が大切です。次々と効果のある薬が出てくる循環器の分野では新薬の処方を考える事も多いのですが、どれくらい保険でカバーされているかを考える事にもなります。興味深い事に、新薬のカバーが最も早いのは低所得患者さんの持っているメディケイドです。メディケイドの患者さんは高い薬でもあまり考えずに処方できるという仕組みも不思議なものです。

6件のコメント

  1. アテンディングになるとそういう仕事が待っているんですねぇ。
    ところで、保険会社が支払いを拒否した入院は、その後どうなっちゃうんですか? 患者さんのところに請求書が行くというのは聞いたことがあるのですが、もちろんそんなの払えない額が請求されますよね? 病院がかぶるだけですか? 
    そして、そう言うケースが多いと、アテンディングの評価につながるのですか?

    • レジデントやフェローは保険の事はあまり考える必要がないですが、アテンデイングになって実際に民間保険を持っている患者さんを診だすと、いろいろなところで現実的に妥協せざるを得ない状況にあたります。ただ、こういう保険の制度に関しては医師に対しての教育がほとんどなく、私もわからない事だらけで、先輩達に聞きながらやっています。入院を拒否された患者さんに関しては、請求書は患者さんに行くはずですが、おそらく患者さんが病院にアピールして、病院側が再アピールとかしていると思うのですが、最終的にどうなっているかは実際には知りません。私の患者さんで、外来で胸痛があったので救急室に送ったところ、入院となって、入院とカテは払われたのですが、救急のアテンデイングが彼女の保険を取らないと言う事で$5000請求されて困ったいる(どうしてそういう事になるのか理解できませんが、、)と言っていました。
      次回は、Professional feeに関して書こうと思っています。

  2. すごい世界ですね。医者の仕事ではないですね。患者さんの利益だけを考えて診療できるようになりたいですね。

    • Managed careと言われるこの民間保険の制度も、保険会社が最も効率的で良い医療のゲートキーパーになるという理想はよいのですが、結局は保険会社の利益のためのものとなっているので、難しいところです。民間保険との交渉を医師がやっていたら医師は本来の仕事をする時間などないのではないかと思います。

  3. 私は健康保険やメディケアを取り扱う保険代理業です。Dr.Yumiのように、保険のカバレージについて知識をもっているお医者さんはあまりおらず、カバーするはずの医療措置や薬が保険適用外になったり、高額な自己負担が出たという相談を受け、保険加入と医療機関の間に入って大変な思いをすることも多いです。ただでさえ医療費の高騰が激しいのに、保険制度が複雑すぎることが、医療費高騰費さらに追い討ちをかけています。普通の健康保険もさることながら、メディケアにいたっては、全くもって複雑で、怒りを覚えます。

    • Taniguchiさん、

      コメントありがとうございます。大変なお仕事ですね。私も保険のカバーに関しては、そんなに知識があるわけではありません。できるだけ患者さんに負担がかからないように、と思いつつ毎日手探りでやっています。実際、この保険の質問に関して、答えてくれる人ってそういないんですよね。またいろいろと教えてください。

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