Skip to main content
新道悠

ブログについて

日本でも徐々に拡がってきている緩和医療と、高齢化が進みながらもあまり馴染みの無い老年医学について、米国でのフェローシップを通じて学んでいく予定です。 私自身、卒後8年目での渡米で、日本での医療をよく知る医師の一人として、日米の医療の違いなども含めて、日本人の先生にシェアしていきます!

新道悠

2012年に千葉大学医学部を卒業後、福岡県の飯塚病院/頴田病院にて初期研修医と総合診療専門医(家庭医)の専門研修を行う。 卒後8年目の2019年よりNYのMount Sinai Beth Israel 病院の内科にてレジデンシーを行い、2022年からMount Sinai Hospitalの老年/緩和フェローとして勤務中。

★おすすめ

認知症の周辺症状とは

今回は老年医学のフェローとして対応することが多い、認知症患者さんにおける周辺症状(興奮、脱抑制、抑うつ、不安、妄想、幻覚)に対する非薬物的なアプローチの一つであるDICEアプローチについて解説します。

これらの周辺症状は、認知症を持つ患者さんであればほぼ必ず経験される症状で(98%程度とも言われる)、かつこれらの患者さんの医療費のうち3割程度がこの周辺症状のコントロールのために使用されるとも言われており医療を提供する面からも重要性が高い症状です。

日々の診療の中でも、この周辺症状の悪化は患者さん本人とケアを提供する家族への大きな負担となることも多く、予期せぬ入院や施設入所などの原因となるため、定期的なチェックと早くからの介入が重要な症状の一つです。

(“Neuropsychiatric symptoms in Alzheimer’s disease.” Alzheimers Dement. 2011. “The cost of behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD) in community-dwelling Alzheimer’s disease patients.” Int J Geriatr Psychiatry. 2002.)

DICEアプローチとは

今回は、この周辺症状に対する非薬物的なアプローチの一つであるDICEについて解説していきます。

というのも、周辺症状のコントロールに使用される薬剤もあるものの、どのカテゴリーの薬剤も必ずしも良い効果を示すデータがあるわけではなく(むしろ副作用や合併症の上昇が懸念される薬剤も多い)、老年科医としては薬剤が必要となる程ではないが軽度の周辺症状が出始めているケース外来などで多く遭遇するため、これらの非薬物的なアプローチを患者さんなどと一緒に取り組むことが多いです

“Kales HC, Gitlin LN, Lyketsos CG; Detroit Expert Panel on Assessment and Management of Neuropsychiatric Symptoms of Dementia. Management of neuropsychiatric symptoms of dementia in clinical settings: recommendations from a multidisciplinary expert panel. J Am Geriatr Soc. 2014 Apr;62(4):762-9. “

DICE のD: Describe (症状を詳しく描写する)

最初のステップは、周辺症状がどのような状況で起きているのか、その症状に対する患者さんの受け取り方やケアを提供している家族やスタッフの受け取り方などを評価することから始まります。

例えば、一口に「患者さんが興奮状態にある」と言われた場合にも、それが不安による症状なのか、攻撃的な言動/行動なのか、見当識障害による混乱なのか、妄想/幻覚のような症状なのかを聞き取ることが症状の原因となっている可能性がある要因を見つける手助けになります。 

DICEのI: Investigate (症状を起こす原因となっている要因を探す)

ここでは、周辺症状の出現/悪化の原因となりうる要因を探していきます。

患者さん側の要因としては、感染症/新しい薬剤の変更/診断・治療されていない精神疾患などや、睡眠不足/便秘/認知機能低下などがチェックすべき項目として挙げられます。

ケア提供者の側にも、認知症に伴う症状の理解不足や、患者さんの周辺症状を助長してしまうような対応がないか、また環境自体が悪化要因になっていないか(刺激が多すぎる/少なすぎる、1日のルーチンが確立しにくいなど)などもチェックします。

特に、患者さんの1日の生活環境を把握することで、患者さんが暮らす場所で危険な行動がないかを焦点を絞って確認することが大切です。(例えば、転倒リスク評価、患者さん一人での外出/迷子になるリスク評価、火の扱い、薬剤の管理など)

DICEのC: Create(患者さん/家族とプランを考える)

前の段階での情報収集(DICEのD)や状況の分析( DICEのI)を元に治療が可能な病態に関しては介入を行います。(感染症に対する抗菌薬、薬剤の変更など)

それ以上に、患者さんとそのケア提供者と一緒に、周辺症状を悪化させないようなコミュニケーションの取り方、患者さんとケア提供者が一緒に行える1日のルーチンの作成などを模索します。

一般的には、外来などで定期的に患者さんとそのケア提供者の方と症状の経過を見ながら、どんな対応やスケジュールなどが有効であったかを色々試しながら時間をかけて患者さんに合ったプランを見つけていきます。

代表的なプランの例

活動:

  • 元々慣れ親しんだ趣味/仕事などに関連した活動を選ぶ
  • 複雑でなく繰り返してできる作業(タオルを畳む、ボタンを仕分けるなど)
  • 準備を手伝い患者さんが興味を持って始められる環境を作る

ケア提供者への教育:

  • 周辺症状が認知症によるもので患者さん自身が意図してしている行動ではないこと
  • 患者さんの希望に添える所は柔軟に対応する(食事や入浴時間を希望に沿って少しずらすなど)
  • 認知症の一般的な進行経過、予想される変化を予め話し合う
  • 衝突するような訂正の仕方やコミュニケーションを避ける
  • サポートグループの紹介

コミュニケーション:

  • 質問などに対して患者さんにゆっくり考える時間を与える
  • 何か行動を促すときには簡単な1-2ステップ程度の指示を心がける

環境調整:

  • 混乱を減らすように整理整頓する
  • 視覚などで見分けがつきやすい、判断しやすいように工夫する(トイレの前に誘導の張り紙をするなど)
  • 集中力を散漫させるような騒音や多くの環境の変化を減らす

DICEのE: Evaluate (評価する) 

前までの段階で計画されたプランが有効で合ったかを評価します。

また、往々にして計画していたプランがその通りにできないことなるもあるので(例えば、日中にできるルーチンの活動としてのデイケアを計画したものの保険でカバーされなかったなど)、計画した後も継続的に評価とそれに応じて調整を行なっていくことになります。

まとめ

今回は、認知症の周辺症状に対するDICEアプローチを紹介しました。

周辺症状は非常に頻度も高く、患者さんやそのケア提供者に対する影響も大きい一方で、薬剤投与以外に試すべきことが多くあるので、そのための系統だったアプローチとしてDICEアプローチはとても良いリマインダーになります。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。


バックナンバー