アメリカ・ニューヨークでの在宅ホスピスについて今回はまとめてみようと思います。
アメリカにおけるホスピスとは
日本で筆者が医師として働いていた際には、ホスピスと緩和ケアはほぼ同義に扱われることが多かった気がします。
アメリカでも患者さんや緩和ケア以外の医療者の間ではホスピスと緩和ケアが混同されることが多いのですが、緩和ケア医の視点からすると「ホスピス」は「健康保険の中のサービスの一環」としての側面が強いです。
というのも、医療保険の中でも「ホスピス」というサービスを受けるためには、「ホスピス」が適応となるような終末期にあたる疾患/病態があることが前提で、その上で「ホスピスサービス」を提供している病院とは別の第三者医療グループに、担当医から患者さんの紹介/申込を行った上で、その申し込みが受け入れられるか否かが第三者機関であるホスピスを提供するグループによって決定されます。
例えば、緩和ケア病棟で緩和ケアを受けている患者さんでも必ずしも健康保険の「ホスピスサービス」を利用している訳ではありません。(Hospice Benefitとも言い、患者さんが自動で受けられる訳ではなく、まず患者さん側から医師と相談して申し込む必要がある)
ホスピスがよく使われるのはどんな時?
患者さん目線でその恩恵に一番預かれる環境は在宅でのホスピスといっても過言ではないでしょう。
というのも、患者目線から健康保険の中の「ホスピスサービス(Benefit)」を利用するメリットとしては、普通の健康保険とは別に、「ホスピスのファンド(Benefit)」から医療サービスに関する支払いが行われたり、家に帰る場合などには在宅での追加のサポートを得ることができる点が挙げられます。
なので、既に医療保険から支払いが行われ、いろいろなサービスが既に提供されている病院に入院中よりは、施設や自宅に退院時などに、緩和ケアを継続するために、追加で訪問看護/訪問ケアなどが必要な場合に開始が検討されます。
アメリカ/ニューヨークでの在宅ホスピスってどんな感じ?
ニューヨークの場合には、ホスピスを運営している2つの大きな医療システムがあり、基本的には患者さんの行き先に応じていずれか一つのシステムに紹介することになります。
紹介を受けた医療システムは独自に患者さんの評価を行って、それぞれのホスピスプログラムに受け入れるか否かを判断します。
基本的には「予後6ヶ月以下」となるような基礎疾患を有する患者さんが受け入れられることになりますが、基礎疾患に応じてさらに細かい規定があります。(健康保険のサービスなので、細かくそのサービスが受けられる条件が定められています)
ホスピスチームは、医師/看護師/ソーシャルワーカー/チャプレン/ホームヘルスエイド/ボランティアなどの多職種から構成されます。
厳密には、ホスピスサービス自体は、病院・施設・自宅など様々な場所で提供され得ますが、今回は在宅でのホスピスサービスについて解説します。
在宅ホスピスを開始すると、上記の医師/看護師/ソーシャルワーカー/チャプレン/ホームヘルスエイド/ボランティアからなる多職種チームからの訪問を定期的に受けることができるようになります。
在宅ホスピスの概要
まず、在宅でのホスピスが開始されると初期の評価のために訪問看護師または医師による自宅での診察/評価が行われ、内服されている薬剤の確認、症状の確認、その他患者/家族の不安なことの相談などが行われます。
その時の評価に応じてその後の訪問頻度が決定されますが、一般的には訪問看護師による訪問が週一回程度の頻度で行われることが多いです。
また、初回訪問の際に予め代表的な症状緩和に使用される内服薬(鎮痛薬/解熱薬/制吐薬/抗せん妄薬など)が入った薬箱を渡して説明することも多いです。
その後、ソーシャルワーカーの訪問やチャプレンの訪問なども順次行われます。
在宅ホスピスを始めた患者さんでは、基本的には全ての医療サービスが在宅ホスピスチームから提供されることになるので、24時間ホスピスグループと連絡が取れるホットラインの電話番号が渡され、何かあれば連絡するように指示されることになります。
日本との終末期における訪問診療の違い
筆者は日本でも終末期の患者さんの訪問診療の経験があるので、日米での終末期の訪問診療の違いを簡単に述べてみます。
米国の在宅ホスピスでは、医師の役割が担当している患者さんたちの総合的なマネジメントにかなり拠っており、実際に患者さんを訪問/診察する役割は訪問看護師さんたちが担っています。
日本の訪問診療クリニックなどでは、一日中医師が訪問に出ているなんてこともありますが、米国での在宅ホスピス医師は、殆ど家やクリニックにいて、訪問看護師/患者さんからの電話対応や、少ないですが新規患者さんの初期評価訪問に出かけます。
日本の訪問診療では、特に終末期の患者さんでは、医師が数週間に1回の訪問、訪問看護スタッフの方もかなり頻繁に(数日おきなど)訪問する印象ですが、米国では全体的な訪問頻度は少なめです。(あまり頻繁に訪問しても保険請求できない)
毎日のケアのサポートが必要な場合には、ホームヘルスエイドと呼ばれるヘルパーさんたちに一日数時間お願いすることもありますが、ケアの大半は家族や友人など実際に家にいて患者さんをサポートできる人たちに依存することになります。
米国で医師をしていてよく感じることですが、日米の医療サービスの違いの多くが、医療保険の違い(どのようにサービスに対して支払いがされるか)に依存していることを実感します。
米国の在宅ホスピスは、日本とかなり異なる米国の医療制度の中で、ほぼ唯一と言っていい在宅で終末期を過ごすためのサポート手段なので、米国の限られた医療リソースの中ではよくやっている方なのかなと思います。
まとめ
今回は、米国での在宅ホスピスの概要や、日本での終末期の患者さんへの訪問診療とのと違いを解説しました!
はじめまして、フィラデルフィア郊外で25年ほど在宅ホスピスナースをしています。先生がおっしゃるように、日本とアメリカの大きな違いは、やはり保険制度ですね。確かにアメリカでのホスピス(特に在宅)ではほとんど医師の訪問はありませんが、最後の1-2週間ほどは、ナースは(必要に応じてホームヘルスエイドも)毎日訪問します。まあ、それも各ホスピスの方針やスタッフィング状況にもよりますが。Medicare Hospice Benefit は日払いですので、営利団体と非営利団体ではスタッフの使い方も違うようです。日本でも、在宅で緩和ケアと看取りができるお医者さんは増えてきているようですが、まだまだ需要には追い付いていないのでしょうね。