今回は、老年医学/緩和ケアで往々にして問題となる患者さんの意思決定能力評価について解説します。
意思決定能力(Decision Making Capacity)とは
老年医学/緩和ケア科で診療を担当する患者さんの中には、基礎疾患などによって十分な意思決定能力があるのかどうかがハッキリしないケースがあります。
注意したいのは、この「医療に関する意思決定能力」というのは、見当識の有無や意識障害/認知機能障害の有無などの評価とは異なります。(これらに問題があっても意思決定能力があると評価される場合がある)
特にこのプロセスでは、「特定の医療に関する選択」についての意思決定能力があるかどうかを評価するので、例えば条件さえ整えば「認知機能障害があるとわかっている患者さんに、胃瘻作成による経管栄養を受けたいか否かを決定する能力があるか?」という評価も成立します。
意思決定能力(Decision Making Capacity)の評価ツール
ここではいくつかよく使用されるツールについて紹介します。
ちなみに、どちらのツールも患者さんが「複数の項目を理解できるているのか?」を言葉などで示すことができることが前提になっているので、何らかの形でコミュニケーションが取れない患者さんでは使用が難しいです。
ツールその1:Aid to Capacity Evaluation (ACE)
(Canadian Medical Association Journal 1996)
1:現在の病態/状況を理解することができるか?
一番最初に評価する項目として、そもそも患者さんが現在の状況/病態を理解できるのか?という項目があります。
必要に応じて病状説明(簡単な病状のサマリーなど)などをしながら、与えた情報を理解できているかを、「自分に説明し返してもらう」方法などを使いながら確認します。
2:提案された選択肢を理解できるか?
現状を理解した上で、複数ある選択肢をさらに理解できるかという点が2点目です。
ここには、例えば治療の選択肢が複数ある場合は代替の選択肢も含めて理解できるかや、そもそも「治療自体を選択肢しない」という選択肢があることを理解できるか?を評価していきます。
3:提示された選択肢をその結果として起きることまで含めて理解できるか?
ここには、ある治療を選ばなかった場合に、その結果として起き得ることまで含めて理解できるかという点も含まれます。
4:意思決定がその他の要因によって著しく影響を受けていないか?
選択をする患者さんが、幻覚、せん妄、抑うつ状態など、意思決定に影響を与えるような他の要因に影響されている可能性がないかをチェックします。
ツールその2:Capacity Determination Criteria
( N Engl J Med 2007)
基本的なコンセプトは近いのですが、NEJMでもCURAの頭文字で4つの項目に絞った意思決定能力評価が紹介されています。
C:Communicate a choice:「自分が選んだ選択肢を伝えることができる」
自分の選んだ選択肢を一貫性を持って伝えることができるというのがまず第一の条件です。(選択がコロコロ変わらない)
U:Understand relevant facts:「選択に関連する事実を理解できる」
この項目は、そもそも与えられる医療的な事実を理解できているかを確認します。
例えば、「今の病状についてどのように聞いていますか?」「選択肢となる治療についてなんと聞いていますか?」など。
そもそも、ある程度複雑な情報である病状や治療の選択肢自体を理解できているのかを確かめるステップです。
R: Reason about information:「論理的に情報を整理できる」
選択をある程度、論理的にリスクとベネフィットを鑑みながら整理できていることを確認します。
例えば、「選択肢Aの方が選択肢Bより良いと思える理由はなんですか?」や「どのようにその選択を選びましたか?」などと尋ねる項目になります。
A:Appreciate the situation and consequences:「状況とそこから起こり得ることを理解できる」
老年/緩和ケアフェローの意思決定能力(Decision Making Capacity)評価
今回は、老年/緩和ケアでたびたび問題になる「この患者さんには決定能力があるのか?」という疑問に有用なフレームワークを紹介しました!