老年医学外来のスキルをOSCEで学ぶ意義
筆者は、NYにあるマウント・サイナイ病院で老年医学/緩和ケアの専門医研修中です。
老年医学のフェローが、「外来で知っておくべきスキル」を学ぶ一環として、少し変わったOSCEを経験しました!
5つのステーションで、それぞれ異なったシナリオを実際に対処しながらフィードバックを受けるわけですが、講義ではなかなか伝えにくいようなスキルや、学習者がある程度対応できて、足りない部分を少し補えばいいようなスキルを教える場合にはとても有用だと感じました。
なかなかユニークなセッションだったので、その内容を紹介していきます!
ステーションその1: 車椅子の人の診察台への移乗をどう助けるか?
老年医学の外来をしていると、スタスタ元気に歩いて来られる方というのは少なく、何らかの補助器具を使用して移動されている患者さんが多いです。
特に、中でも車椅子を使用している患者さんの診察は、他の器具を使用している患者さんよりも移乗/起立などの動作により多くの介助が必要ケースが多く、安全な移乗を助けるのにコツが要ります。
一方で、長く座っている患者さんの場合には、臀部や背部に褥瘡を来すことがあるので、安全に移乗や起立をしてもらっての皮膚の診察が重要なので、診察のための車椅子からの移乗/起立介助は重要なスキルです。
実際に車椅子に座っている模擬患者さんを診察する形でポイントを押さえて確認します。
- 普段の移乗の仕方を確認(どのくらい介助が必要な人なのか?)
- ストッパーを外して移動+ストッパーを固定
- 足置きを上げる介助。前に立つ形での移乗見守り
その他にも、「この患者さんが診察予約に行くとしたらどんな助けがいるのか?」→「車椅子対応の医療用タクシーの手配の助けが必要か?」など、外来をしているとよく遭遇するシチュエーションをおさらいするステーションでした。
ステーションその2:杖の処方の仕方、使い方
片手杖の処方箋ってどう書くの?
アメリカでは杖や歩行器などの医療器具は、医師が診断名をつけて処方箋を出すと保険が適用されます。
少しレトロですが、電子カルテ上でオーダーが通らない場合も多いので、紙の処方箋に手書きで書くことが多いです。
医師側も紙の処方箋に慣れてないので、有効な処方箋をきちんと書けるようにポイントを抑える必要があります。
ポイントとしては、
- 適応となる診断名とコード(ICD-10)
- 数量(医療器具の場合は1つ)
- refill (日本には馴染みがないですが、医師の新しい診察が無くとも、継続処方を新しく「おかわり:Refill」がもらえる制度があります。医療器具の場合は普通ゼロです)
- 使い方(As Directed-指示通り みたいな書き方が医療器具は多いです
杖の使い方あれこれ
杖などは(たまに歩行器なども)比較的患者さんにとって身近なこともあり、時々患者さんたちが医師が処方したわけではない杖などを(自分で買って)持ってくることがあります。
そんな時に、正しい杖の調整の仕方や、使い方などを指導できるように、ポイントを確認しました。
具体的には、杖の適切な高さ(手首のシワの高さ)、杖の持ち方(患側と逆の側)、実際の歩き方、階段の登り方/下り方などを実際に廊下と階段に出て練習しました。
実際にワークショップで経験してから、自分の患者さんでも適切でない高さの杖を使用してる方が多いことに気付かされました。
ステーションその3:患者さんからの質問に平易な言葉で説明+わからないことを診療の合間にどう調べるか?
「患者さんからの質問に平易な言葉で説明+わからないことを診療の合間にどう調べるか?」という趣旨のステーションだと(?)思っています。
具体的には、観察者の指導医の前で、外来患者さん役の模擬患者さんからの説明に答えます。
患者さんの質問は、「今の年齢(78歳女性)で打った方がいいワクチンはなんですか?(ワクチン歴の聴取も必要)+子宮頸がん検診続けた方がいいですか?」というもの。
ちなみに、子宮頸がんは65歳以上で今まで子宮頸がんの既往もなく、十分な過去の陰性スクリーニング歴(HPV+PAPの合同テストが過去2回連続陰性(最終は5年以内)かPAPだけなら3回連続陰性)があれば、終了を検討できます。
シナリオの思惑通り、「なんとなく中止していい気がするけど、何歳以上で何回陰性だっけ、、、」と悩む私。
そんな時に、「忙しい外来中に何でパッと情報を調べますか?」というステーションでした。
もちろんUpToDateが検索機能も優れていて1番よく使います。一方で、ワクチンやスクリーニングガイドラインはアメリカの場合CDCのサイトに直接行っても情報が比較的簡単に手に入ることを学びました。
ステーション4:褥瘡について指導を患者さんの家族に電話
ちょっと趣向が変わり、「患者さん家族からの電話で、褥瘡についての質問に答える」というシナリオ。
電話越しに、別室にいる患者さん家族役の指導医と褥瘡について話します。
自分がインターンの時は「患者さんや家族に英語で電話するのがとっても苦手だったなー」なんて懐かしい思いをしながら電話しました。
シナリオ上は、1度の仙骨部の褥瘡の患者さんのご家族が退院後にどうしたらいいのかわからなくて電話してくるというシナリオ。
電話での情報収集+家族に褥瘡の一般的な説明、対処の仕方。
家族からの質問(ドーナツクッションの是非、手持ちの抗菌薬軟膏塗っていいか?、病院のクッション高いけど買った方がいいのか?など)を簡単な言葉で説明します。
ステーションその5: PubMedの使い方
とても目新しいわけではなかったですが、キーワードを関連付けて検索をかける方法などを簡単に確認しました。
まとめ
老年医学/緩和ケアのフェロー中ですが、完全に労働力だった内科レジデント時代と違って、しっかり専門医になるべく勉強する機会があるのがフェローとレジデント時代の大きな違いです。
特に、外来の細かなスキルなどは、講義で聞いても定着しにくかったり、口で説明しにくい部分も多いので、今回のようなワークショップでの学習はとても有用だと感じました。