前回の記事でDartmouth Cancer Centerでの血液腫瘍内科フェローシップの概要、オリエンテーションの様子をご紹介いたしました。8月に入り、はじめの臨床ローテーションである外来ブロックでの研修を開始しました。
血液/腫瘍内科外来
外来の構造は、平日5日の午前と午後を計10コマとカウントします。集中的に外来を学ぶ今のローテーションでは、10コマのうち8コマの外来を担当することになっています。8コマの内訳としては、Benign hematology、Malignant hematology、Gastrointestinal oncology、Genitourinary oncology、Thoracic oncologyと数コマの骨髄生検のトレーニングがふくまれます。そのほか、多岐にわたるがん種に対応した外来が存在しており、今後のContinuity Clinicや外来ブロックで選択して研修を行うことができます。
外来でフェローがどのような業務を行うか、また、指導医とどこまで関わるかはプログラムによって違いがありますが、Dartmouth Cancer Centerの研修では、各指導医のもとについて、特に教育的な症例について診察、治療計画の立案を行い、指導医にプレゼンテーションしてフィードバックを受けるという形になっています。退役軍人病院での研修においても外来を担当することになっていますが、その外来ではフェローがより独立して診療を行うことになっています。以下で各外来で扱っている疾患の内容を簡単にご紹介します。
Benign hematology
血液疾患のうち、貧血、多血症、血小板減少症、血小板増多症、凝固異常などの悪性腫瘍に分類されない疾患を主に扱っています。最も多いのは貧血の患者さんですが、アメリカで特徴的なのは鎌状赤血球症の方を目にすることです。ただし、鎌状赤血球症はAfrican Americanに多いとされているので、Dartmouth Cancer Centerがある地域ではその他の地域に比べて目にする機会はまれです。
Malignant hematology
白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液のがんを扱います。日本との比較で特徴的なのは、比較的白人に多い慢性リンパ性白血病やホジキンリンパ腫の症例を見る機会が比較的多いことです。
Gastrointestinal oncology
消化器のがんを扱います、主ながん種は大腸がん、肝臓がん、胃がんなどです。多くの疾患では複数の治療法を組み合わせることが標準治療となっているため、消化器内科、消化器外科、放射線科と絶えず連絡を取り合いながら各症例の治療にあたっています。
Genitourinary oncology
泌尿器のがんの診療を行っています。最も多い疾患は前立腺がんですが、膀胱がんや尿管がんを診療することも多いです。ほとんどの症例においては泌尿器科と併診しており、泌尿器科が手術や処置を、腫瘍内科が化学療法を担当しています。
Thoracic oncology
胸部の悪性腫瘍を診療しており、肺がんを主に診療しています。その他の扱うがん種としては胸腺がんを扱うこともあります。肺がんの治療も複数の治療の組み合わせが標準治療となっているので、胸部外科、呼吸器内科、放射線科とコミュニケーションをとりながら診療を行っています。
このシステムで興味深いのは、ある日の午前中にGenitourinary oncologyの外来を行って、その日の午後にはThoracic oncologyの外来を受け持つこともあるということです。このように異なる種類のがんの診療を同時に経験することは腫瘍内科のトレーニングにおいて重要なことであると感じています。というのは、あるがん種に対して効果的な治療がどうしてその他のがんに対しては効果が薄いのかというような、異なるがん種での比較や類推を行うことで、治療やその背後にある生理学、薬理学的メカニズムの理解が深まると同時に、研究課題を見つけることができるからです。この点が臓器別ではなく、臓器横断的にがんの薬物治療を扱う専門科のメリットであると感じています。
9月は血液内科病棟で研修を行うことになっていますので、そこでの経験も発信させていただきます。