Covid-19やサル痘など息つく暇もなくあらわれたりぶり返したりする新興感染症、悪化する一方の多剤耐性菌問題など、ホットな話題に事欠かない感染症領域ですが、感染症専門医の育成が急務であることは自明のように思われます。
さて、日本では専門医機構のもとで感染症専門研修が新専門医制度に移行するとのことで、今後の日本での感染症専門研修がどうなっていくか、まだ流動的であるとのことです。
そこで今回は、なにか参考になればと思い、私の感染症フェローシップの年間スケジュールをざっと見てみたいと思います。
感染症専門研修スケジュール
1年目の年間ローテーション
フェローシップ1年目は、臨床重視でほぼ一年を通してずっと入院患者のコンサルトを担当します。2〜4週間ごとに、以下のような多彩なサービス・病院をローテーションして、経験を深めていきます。
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ワシントン大学病院(一般感染症):8週間
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ワシントン大学病院(固形臓器移植):12週間
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ワシントン大学病院(フレッド・ハッチンソンがんセンター):6週間
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ハーバービュー・メディカルセンター(一般感染症 + HIV/AIDS):12週間
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退役軍人病院:6週間
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シアトルこども病院:4週間
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Quality Improvement:2週間
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バケーション:4週間(1週間×2回 + 2週間×1回)
この他に、週1回半日の感染症外来を担当し、毎回5名の紹介患者さん(新患もしくは退院フォローアップ)を診ます。外来指導医と全例振り返りを行うのですが、指導医は(その時間に直接患者を担当せず)フェローの指導をするためだけにそこに居てくれています。ありがたいことです。
2年目の年間ローテーション
2年目は、臨床ヘビーな1年目からガラッと変わって、学術活動が中心になります。
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病棟コンサルト:6週間
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感染症外来(一般感染症 + HIV):半日×週3回
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バケーション:4週間
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リサーチ:残った時間すべて
さて、この研修スケジュールは、よその感染症フェローシッププログラムと比べて、どれくらい標準的、もしくは特殊なのでしょうか??
フェローシップ・トレーニングについての米国感染症学会からの推奨
Infectious Diseases Society of America (IDSA: 米国感染症学会)から、フェローシップカリキュラムの要件について推奨が出ています。
カリキュラムの概要
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3つの教育トラックがあり得る:
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臨床医トラック
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臨床研究者トラック
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基礎研究者トラック
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全てのトラックは、12ヶ月のコア・カリキュラム臨床トレーニングを用意すべきである。臨床トラックでは、さらに12ヶ月のフェローシップ・トレーニング、研究者トラックでは、研究を完遂して研究者として独り立ちするための時間を確保するために、さらに24ヶ月のトレーニングを提供すべきである。
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米国感染症専門医試験を受ける資格を得るためには、2年間はトレーニングを受ける必要がある。
コア・カリキュラム
以下のような大まかな指針が出ています。
必須要件 |
理想 |
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感染症コンサルト |
250以上のコンサルトを担当 |
250以上のコンサルトを担当 |
疫学 |
感染制御委員会への参加、または 正式な24時間コースやSHEA*コースに相当するコースの受講、または1ヶ月のローテーション |
28時間コースの受講、講義+実践(SHEA*コースに相当)、または1ヶ月のローテーション |
微生物学 |
臨床微生物学における実践経験 |
臨床微生物学:1ヶ月もしくは120時間(細菌学、真菌学、ウイルス学、寄生虫学、抗菌薬感受性試験) |
性感染症 |
専門知識が必須 |
2.5〜3日の研修(CDCの提供するコースに相当) |
移植・免疫不全患者 |
固形臓器移植患者と骨髄移植患者の診療経験を積むこと。 |
・移植患者:20名以上 ・免疫不全宿主:20名以上 |
継続外来 |
・18ヶ月 ・必ずHIV患者を診療すること。 |
・24ヶ月のうち10%の時間を費やす(平均的には週半日)。 ・20名の新患HIV患者をフォローする。 |
講義 |
・生命倫理コース |
・生命倫理 |
カンファレンス |
2時間/週(症例検討会を含む) |
2時間/週(症例検討会を含む)。24ヶ月通じて60%以上の出席率。 |
HIV入院診療 |
必須 |
必須 |
引用:https://www.idsociety.org/professional-development/fellows-in-training-career–education-center/fellows-in-training-exam/curriculum-requirements/
*Society for Healthcare Epidemiology of America
まだ始まって2ヶ月も経っていませんが、入院診療でのコンサルトの件数は、数えるまでもなく上記の250を優に超えるでしょう。
臨床微生物学における実践経験については、月水金と週3回 Microbiology Rounds(微生物学ラウンド:培養検査結果をもとに感染症医、微生物学検査の専門家、感染症専門薬剤師らでディスカッション)を行っています。私がこれだけの経験で微生物学の専門家になれるわけでは到底ないのですが、毎日のように知識のシャワーを浴びている状態です。
今回は、当院での感染症専門研修のローテーション・スケジュールを振り返ってみました。日米を問わず、他の施設での様子もぜひ知りたいです。