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青柳有紀

ブログについて

アメリカで得られないものが日本にあるように、日本では得られないものがアメリカにはある。感染症、予防医学、公衆衛生学について、ニューイングランドでの日常を織り交ぜつつ、考えたことを記していきたい。

青柳有紀

Clinical Assistant Professor of Medicine(ダートマス大学)。国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒(学士編入学)。現在、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびルワンダ共和国医師。米国内科専門医。米国感染症専門医。米国予防医学専門医。公衆衛生学修士(ダートマス大学)。

今年、私が所属している施設からは、私を含めて、トラベル・クリニックで10年以上診療に関わっているナースのベッツィと、アテンディング(指導医)のルタの3人が受験しました。

 

ISTMのウェブサイトにある案内と、試験で問われる知識の内容を体系的にまとめたもの(Body of Knowledge)に目を通したあと、2年前にハンガリーでの試験を経験した日本の友人からの情報で、Dominic Colbert著 “Mcqs in Travel and Tropical Medicine”(2009)という問題集で試験の準備を始めました。内容は興味深いもので、 実際に自分がトラベル・クリニックで診療する際にも役立つものでした。ただ、出版年が2009年だからか、旅行医学においては重要な「旬な話題」や「最新の動向」が反映されておらず、「古いゆえに実際の試験では不正解になってしまう知識」が散見されました。したがって、この問題集を利用する際には、CDCやWHOのウェブサイトを通じて、常に最新の情報と照らし合わせる作業が不可欠です。また、正解以外の選択肢それぞれの内容から学ぶべきことも多いので、丁寧かつじっくりと取り組むことををおすすめします。

 

CTH®は旅行医学領域の専門性を認定する試験なので、重要なトピックに関しては当然、深い知識が要求されます。マラリアはその代表で、疫学、病態生理、予防、診断、治療に関して試験前に十分に知識を整理しておく必要があります。特に重要なのは疫学と予防に関する知識で、クロロキンやメフロキン耐性マラリアの最新動向を理解した上で、各予防薬の禁忌や副作用などについて詳しく整理する必要があります。他の重要なトピックとしては、各種予防接種およびその対象となる疾患(例:黄熱病など)の疫学的知識が挙げられます。また、感染症だけでなく、潜水医学や航空および登山に関する医学知識も試験の対象です。

 

旅行医学に関する知識を体系的にまとめた(CTH®対策におすすめの)教科書を一冊挙げるとすれば、Keystone著、Travel Medicine(2008)になります。Keystone先生はISTMの重鎮で、彼のプレゼンテーションを学会等で聞いたことがある方ならお分かりかと思いますが、この本の内容も彼のプレゼンテーション同様、簡潔で理解しやすいものです。2008年の出版なので、やはり他のソースを利用して最新の情報でアップデートする必要がある部分もありますが、そうした難点を差し引いてもこの本はおすすめです。

 

その他に有用だったのは、試験直前に利用したCTH®対策用のISTMのウェブセミナーです(確かmock examと銘打った90分程度のものでした)。試験問題に類似した問題演習とその解説が主な内容で、前述のKeystone先生によるものです。実際の試験では(記憶が曖昧ですが)類似した問題がいくつか出たような気がします。

 

試験結果ですが、幸い合格していました。同僚のベッツィも、アテンディングのルタも合格でした。ベッツィはMcqsなどの問題集は利用せず、またその存在自体知らなかったそうです。前述のように彼女は医師ではなくナースです。トラベル・クリニックで10年の経験があり、実際にこの分野では医師である自分よりも多くのことを知っていて、普段の仕事に際してもよく相談に乗ってもらっています。今回の試験に際して、問題集などで欠けている知識を補う必要があった自分とは異なり、(本人曰く)特別な試験対策をせずとも経験あるプラクティショナーがちゃんと合格するという点で、この試験は非常によくできていると思いましたし、その内容は、ISTMが意図するCTH®の本来の目的に沿うものだという印象を持ちました。

 

1件のコメント

  1. 余談ですが、受験料が650ドルもするのにCertificateの紙質がチープなのが残念です。給与に反映されないという現実を、自ずと反映しているような気さえします。

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