ハワイで内科診療をするにあたり、移民と健康の問題は避けて通る訳にはいきません。
今回は、ポリネシア系移民の現状を紹介したいと思います。
●ポリネシア諸国の地理と歴史
ハワイは地図上、ちょうど太平洋の真ん中に位置するのですが、そこからオーストラリアまでの間に大小様々な島国が存在し、総称としてポリネシア、ミクロネシアなどと呼ばれます。ハワイ民族のルーツでもあり、歴史的に重要な国々です。過去にはフランス、スペイン、イギリスなどの植民地支配の歴史があり、現在はその美しい風景と温暖な気候からリゾート観光で支えられていますが経済的には貧しい現状があります。識字率の低さ、医療過疎という問題もあります。
たくさんの独立国の中からハワイでよく見られるのはサモア、チューク、トンガ、ポンペイ、マーシャル諸島などからの移民です。
●核実験と健康
東西冷戦時代に米国はマーシャル諸島で60回以上もの原水爆実験を実行しました。その後、1986年に米国は核実験関連の健康被害に関しては責任もって米国で医療を提供するという協定を結びました。どれくらいの健康問題が核実験関連として統計されているのか詳細は分からないのですが、そういった事情や医療過疎の現状もありポリネシア諸国から医療を求めて渡米する患者は多いです。最も近隣の米国がハワイかグアムになり、多くの患者さんが私の研修するオアフ島にある総合病院のERや外来にやってきます。
●深刻な慢性疾患、肥満
「ホノルル国際空港から直接当院ERに来ました。」というケースに何度か出会いました。未治療の進行癌であったり、ハワイでは見ない感染症(抗酸菌感染、寄生虫、ハンセン病)、糖尿病性壊疽に伴った感染症であったり。英語が話せないケースも多く、インターネット電話通訳を利用しての診察は時間がかかりますが、みなさん辛抱強く医療者に協力して下さいます。
外来では、重度の肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などの慢性疾患との闘いです。生活指導だけでコントロールしていくのは困難で、医療保険も十分でない中、なんとか安い薬で治療していくしかありません。記録や壁画を見ると農耕民族のポリネシア系住民はやせていたようですが、遺伝的に肥満傾向が強いようです。移住して欧米の食事にさらされ家族全員がみるみる肥満になっていくようです。
内科レジデントの研修する当院外来では、こうしたプライマリケア医を持たない医療過疎地からの移民に、言葉の壁、経済的困難、文化的習慣を乗り越え、どうすれば適切な医療を提供できるかを日々悩みながら診療します。慢性疾患の管理、予防といういった外来診療の中心に価値を見出してもらうために真摯に説明をするしかありません。
○診療に役立つサモア語(患者さんから教わったものであり、正式な言い回しとは異なるかもしれません)
“Talofa” = おはよう / “To-fa” = さようなら / “Faafeta”=ありがとう
“Kinga” = 痛み / “Puai” = 吐き気 / “Ai lelei” = 食欲
“Maanava”=呼吸、肺 / “Manava”=腹部 / “Vae”=足 / “Linma” = 手 / “Ulu” = 頭
“Lelei” = よくなってきている / “Taeao” = 明日
“Oau Lou Fomai” = 私があなたの医師です。
“Lou ingoa oau ~” = 私の名前は〜です。
●まとめ
ポリネシア系移民で医療を求めてハワイに移住する患者によく出会いますが、言語・社会経済的な問題から、彼らの抱える医療問題は複雑です。
そうなんですよね。内科のみならず、小児科もIslanderの方を診る機会が多く、言語・社会経済的な問題で行き詰まることがしばしばありますよね。
桑原先生、そうですよね。「健康はその個人が定義するもの」という言葉がありますが、社会経済が強く影響を与えることも気づかされます。
はじめまして。
日本の某大学医学部2回生の宇野萌と申します。
こちらのブログを拝見し、日本の医学生を対象としたハワイでのセミナーについてぜひ野木先生に伺いたいのですが、このコメント欄では個人的な要件をなかなかお伝えし難く思っております。
そこで大変恐縮ですが、どうか一度私のメールアドレスに返信いただけないでしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします。