Skip to main content
高橋康一

ブログについて

アメリカでのPhysician Scientist Lifeをつづります。

高橋康一

2006年、新潟大学を卒業。虎の門で初期研修を終え、渡米。NYベスイスラエル病院で内科研修を終えた後、MDアンダーソン癌センターで血液・腫瘍内科フェロー。現在、同病院白血病科・ゲノム医療科でアシスタント・プロフェッサー。Physician Scientistとして、白血病診療とゲノム研究を行っています。ラボに興味ある人は連絡ください!

「Aさんは夜間、熱発したからセフェピームとバンコマイシンが開始されてます。レントゲンの結果が返って来てないから、それだけ確認しといてください。昨日うちのチームに入院してきた新規患者は7人です。ではよろしく。」
夜間シフトのナースプラクティショナーから想像以上に簡潔すぎる申し送りを受けて、初日の朝がスタートした。
「新規入院7人?」
指導医の回診はあと1時間で始まる。それまでに7人の病歴を読んで他の患者さんについてもレビューするのは不可能だなとぶつぶつ文句を呟きながら、なんとか新規入院患者の病歴だけは目を通す。
7時になると指導医を含めて、チームのメンバーひとりずつ病棟に集まってくる。白血病科のチーム構成は指導医、フェロー、薬剤師一人、そして1-2人のPA(フィジシャンアシスタント)ないしNP(ナースプラクティショナー)でなる。
そう、MDアンダーソンにはいわゆるレジデントやインターンがいない。
「じゃあ、回診を始めよう。」
「Bさんは52歳男性、新規のFLT3-ITD陽性、正常核型のAMLで今回プロトコル2011-074でAC-220とイダルビシン、Ara-Cを組み合わせた初回導入の入院です。ブラストは骨髄に80%です。」
聞いてるのか聞いてないのか分からない顔をしながら指導医はものすごいスピードで一人ひとりのチャートラウンドを進めていく。新規入院7人、チーム内に計28人いるので急いでるようだ。
指導医が指示したことをオーダーしていくのは病棟薬剤師だ。
薬剤師がオーダー?
彼らは、一般の薬学部を出てから専門のレジデント教育を経てClinical Pharmacistの資格をもつ特別な臨床薬剤師だ。スローンケタリングをローテートしたときもそのような薬剤師が回診中に大変重要なコメントをしてくれていたが、さすがにオーダーを入力する薬剤師は初めてみた。彼らはまるでシニアレジデントのように、効率良く薬剤のオーダーを入れていく。時には、検査のオーダーも入れていく。
「Cさん、今日で退院ですね。来週に私の外来に来てください。退院時の処方と、内服薬の説明にはあとで薬剤師のMが来て説明しますから。」
あとで、薬剤師のMの説明に同行したが、一つ一つの内服薬について用法を実に細かく丁寧に説明する。特に血液系の患者さんの内服薬はものすごい数なので、患者さんが混乱するのも無理はない。
「この薬を飲んでる時は、とくに抗生剤なんかとの組み合わせが難しいので、地元のお医者さんに抗生剤を処方されるときは気をつけてくださいね。」
自分はグレープフルーツと一部の薬を一緒に飲んじゃいけないことと、ワーファリン中は納豆が食べられないことくらいしか知らない。。。。アメリカでは納豆の説明はいらないのだが(余談)。
彼らは、ベッドサイドの活躍だけではない。彼らは研究もするし、論文も書く。米国血液学会で発表もするし、我々フェロー相手に抗癌剤に関する講義もしてくれる。入院担当と外来担当を定期的にローテートする。
「この痙攣薬とこの抗真菌薬は組み合わせ悪いから変えておきます」
自分だけだと過去に何も起こらなかったからという理由で時になーなーにしてしまう細かいところをしっかり指摘してくれる。医者の知識がどうしても行き届かないところを十分に補って余りある。チーム医療という言葉よりはどちらかというと「プロフェッショナル医療」という言葉が合うように思う。互いのチームメイトが、それぞれプロの集団なのだ。彼らが一つのチームを構成して、一つの目標に向かって仕事をする。
「スーパー薬剤師だな、これは。」と思わず感心してしまう。

1件のコメント

  1. 有名なMDアンダーソンの実際の診療の様子がよくわかりました。これからも、いろいろなことを教えてください。ブログ楽しみにしています。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。


バックナンバー