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佐々木潤

ブログについて

世界各地で子育て奮闘中のお母さん・お父さんから同業の小児科医の先生方まで、いろんな人に読んでもらえるブログを目指します。

佐々木潤

東京医科歯科大学卒業、横須賀海軍病院を経て、ニューヨークで一般小児研修、マイアミで小児集中治療、循環器集中治療の専門研修を修了。現在は、ボストンこども病院にて小児循環器集中治療の指導医として働いている。

★おすすめ
「助けてください。子どもの具合が悪いんです」

その女性は毛布にくるまれた子どもを抱えて駆け込んできた。そこは在ニューヨーク日本国総領事館。
スタッフがすぐに救急隊を呼び近くの病院に搬送。しかし、治療のかいなくその子はまもなく息を引き取ってしまう。スタッフが思わずなぜ自分で911をかけたり、すぐ近くの病院に行かなかったのか尋ねると、彼女は消え入りうな声でこう答えた。

「英語はわかりません。どこに行けばいいかわからなかったんです」

これはニューヨークにいるときに関係者の方から伝え聞いた話です。この話の真偽は定かではありません。でもこの悲劇が実際に起こりうる状況がアメリカにはあります。

ニューヨークで小児科研修医として働いていたときに日本人の子どもを診る機会が何度もありました。
アメリカ人の先生の英語での問診、症状、治療の説明は完全には理解できなかったこと、そして質問も英語ではできなかったことを、親御さんたちは決まって口にしていました。多少英語が話せても、子どもが病気である精神的ストレスのある状況下であったり、医療用語を使っての会話は簡単ではありません。そして、大抵の場合、父親たちは仕事で来ている以上英語は話せますが、それについてきた母親達はあまり英語は話せません。子育てに専念して、一般世間との関わりが少ないと英語を学ぶ機会も少なく上達しません。
言葉の壁によってアメリカにいながら医療難民になってしまうのです。前出の極限的な状況ばかりでなく、薬局で買える熱冷ましの薬、アレルギーの薬など一般的な医療情報の入手も難しくなります。そういった状況を目の当たりにして、米国で働く日本人医療従事者として少しづつでも何かをしたいと思うようになっていました。

2010年7月のマイアミ移住を機にマイアミすくすく会」を立ち上げ、少しずつマイアミの邦人社会向けに主に子どもに関する医療情報を日本語で提供する試みを始めました。もちろんモデルにしたのはNYにいるときに何度か参加させていただいた「ニューヨークすくすく会」です。以下はニューヨークすくすく会のホームページからの抜粋です。

<「ニューヨークすくすく会」は、小児科医、ソーシャルワーカー、助産婦などの専門家が、ニューヨーク地域で子育てをしている日本人のお母さんを支援する為に創ったボランティア・グループです。外国で子育てする不安、日米医療の違いがわからない、困った時に誰に相談していいかわからない、そんな悩みをもったお母さん方に、実用的なサービスを提供するのが「ニューヨークすくすく会」の目的です。>

マイアミは大都市といえども内訳はヒスパニックの人ばかりであって、フロリダ州全体で邦人が約7000人の”過疎地”です。アジア人ましては日本人はほとんど町中で見かけません。しかし、マイアミ補習校は生徒数100人ほどもいますし、日本人社会は存在します。いろんな医療従事者の方を巻き込んで幅広い情報を提供できる団体を目標にできることから少しずつ始めています。
まず、マイアミ補習校で医療講演会を開催し、そこで希望者を募り、子育て、医療情報メールマガジンを不定期に発信しています。
この会をたちあげた最大の目的のひとつが、子どもがまだ小さく自宅で子育てしているお母さん達が孤立して、子育ての悩みから”うつ”になってしまうような環境をつくらないことです。ふと子育てに悩み、孤独感にさいなまれたときに日本語で頼れる情報源があるというだけで少しでも気が楽になると信じています。

いずれは、このすくすく会活動を発展させ、全米の補習校をまわって医療講演会を行う計画です。
なぜ、補習校かといいますと、僕が思うに米国における日本語補習校は邦人社会の重要な会合、情報交換の場です。さながら礼拝にいく教会のようなものでしょうか。毎週土曜日に子どもの送り迎えをし、親同士が情報を交換しあう。これほど最大多数の日本人の親御さんたちに会える場所は他にはないでしょう。
もし補習校の関係者の方でこれを見てぜひうちに来てください、という方がいたらご連絡ください。この記事にコメントしていただければ入力されたメールアドレス(公開はされません)に返信させていただきます。ただ時期等の確約はまだできません。ご了承ください。講演内容としては、薬局で買える解熱剤、抗アレルギー薬の話から、予防接種、救急車の呼び方、小児心配蘇生の講義等を考えています。
アメリカで臨床研修をした日本人の小児科医は少数ですが、増えてきています。僕が直接存じ上げない方もいるかもしれません。もし手伝いたいという方は連絡ください。医学生で興味があり手伝いたいという方も募集します。

僕は東日本大震災の被災地に行きませんでした。あの惨状をテレビで目にしながら募金をすることしかできませんでした。
海外に住む多くの日本人が同じ歯がゆい思いを抱いたに違いありません。
だから今アメリカで、日本人として、日本人のためにできることを精一杯することが僕の使命だと思っています。

4件のコメント

  1. 医療を受ける際の言語の壁は大きいですね。ただ、通訳サービスはクリニックでも病院でもありますので、(直接通訳者が来てくれる場合と、電話やテレビ電話でつなげてもらえる場合がある)緊急の場合、迷わず病院にいくべきです。こういった情報はどんどん日本人のコミュニケーションサイトなどで情報発信していくべきですね。

    • 全くその通りです。通訳サービスがあると知るだけでかなり安心感が増すのではないでしょうか。

  2. 佐々木先生
    素晴らしいアイデアだと思います。アメリカにおける邦人社会は、日本語補習授業校と強い繋がりをもっています。私も子ども達がフィラデルフィア補習校に通っていた時は、毎年の運動会の校医と何回か講習会(一度はプリンストン補習校で)をしたことがあります。学校の方は、「お医者さんは忙しそうだから…」とかなり遠慮していたようでした。もっとこちらから積極的に働きかけるべきだった、と多少後悔しています。「医者のかかり方」「予防接種の考え方」「ツベルクリン陽性時の対応」など、テーマにしたと思います。今は、昔と違い日本人の医師も増えたことですし、何か皆で協力してできることがあれば良いですね。
    津田 武

    • 津田先生
      ありがとうございます。少しずつでもいいので継続できる形にしたいと思っています。

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