(この記事は、2015年8月26日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
ある研究では、米国の医師は一般の労働者に比べ、燃え尽き症候群に陥りやすく、ワークライフバランスにも不満を持つ人が多い、という結果が出ている(Arch Intern Med.2012;172:1377-85.)。一般の労働者と比べたら当然そうだよね、と言うべきか。それとも、アメリカの医者でも燃え尽きるの?と言うべきか。
確かにアメリカの医師の働き方は、日本に比べたら恵まれている。週の労働時間は、40 時間とは言えないけれど、たいていの場合50 ~60 時間に収まる。ただし、病院や学会で重要な役職に就くなど、上を目指そうとすると、それだけでは足りない。
空いた時間を使って研究したり、経営学や公衆衛生学の大学院に通ったり、学会の実行委員になったり。給料をもらうための「仕事」に加え、「課外活動」に勤しまないといけない。特に教育病院では、自らの専門分野の論文を読み、学会に参加して知識をアップデートしないと、学生や研修医から指導医として評価されない。そういった積み重ねが実績となり、キャリアの形成につながる。
キャリア云々と言わなくても、アメリカで医師をしていると色々と気を使う。上司、同僚、部下、学生、職員、さらに患者から常に評価され、それが昇進や雇用に関わるのだから、誰からも嫌われないように愛想よく、正しく振る舞わないといけない。また、入院日数や再入院率など病院経営に重要となる指標が常にチェックされ、自分にフィードバックされて、ボーナスと連動することもある。あまりに突出して数字が悪いと、クビになるかもしれない。否が応にも、それらの指標を意識しながら診療せざるを得なくなる。
さらに、常に訴訟の可能性を頭の片隅に置きながら診療するのは、思った以上にしんどい。自分の医学的判断が、訴訟リスクによって変更を余儀なくされる感覚は、仕事への情熱や医師としての矜持を少しずつそぎ落としていく。
ただでさえ人の健康や生死に関わるストレスの多い職業だ。自らの免許と医師人生をかけて、リスクの高い高度の判断を素早く下すよう常に迫られる。こう考えると、アメリカで医師をやっていくのも結構大変だ。冒頭の研究では、約半数の医師が過去1年以内に燃え尽き症状を経験したというが、その結果もうなずける。
じゃあどうすればいいの?という問いに簡単な答えはないけれど、それぞれが自分にとってベストな立ち位置を見つけるしかないのかな、と思う。日本では、休日中の呼び出し禁止とか、幾つか分かりやすい改善策はありそうだけど。