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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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(この記事は、2013年12月5日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

この7月から、migrant worker(季節労働者、出稼ぎ労働者)を対象にした地域のクリニックで研修を開始した。そこは政府から補助を受け、無保険者に格安で医療を提供している。私は通年で週1回の外来診療と、クリニックの運営に関わるプロジェクトに携わる。

受診する季節労働者は、主にテキサス州から夏の間のみミネソタ州のロチェスターに移動し、農業関連の工場で働いている。彼らの多くはヒスパニック系の40~60歳代で、英語が話せない。普段は安定した職を持たず、合法的な移民ではないことも多く、ほとんどは医療保険を持っていない。

出稼ぎに来られるくらい体は丈夫だが、糖尿病や高血圧などの慢性疾患を持つ人が多い。働き口がないときは、お金がないので医者に掛かることもできず、薬も買えない。やっと仕事を見つけ収入を得て、医師の診察を受けられるようになった頃には、血糖や血圧が大幅に悪化している。こんなケースが絶えない。

クリニックにはスペイン語を話せる職員が常駐し、診療を補助している。彼らなくして診療は成り立たないが、通訳を介したとしても、文化の違い、医療に関する知識の違いが診療を難しくすることが多い。

例えば、高血圧と心不全の既往がある南米出身の女性は、1カ月ほど前にメキシコに行き、そこで処方された薬を米国で処方された薬と一緒に服用していた。数日前、めまいやむくみなどの症状が出たため、全ての薬を中止したらしい。服用していた薬を持ってきてもらい確かめると、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、アロプリノールなど10種類もあった。クリニックの記録では、昨年、彼女に処方していたのは、そのうちの3剤だけだった。

聴診では軽度の肺水腫が見られ、血液検査では腎機能が悪化していた。本人は尿量の低下を自覚し、全ての症状の原因は膀胱炎と考えていた。尿検査で炎症を認めず抗菌薬が不要なことを説明したが、なかなか納得してもらえなかった。内服薬を調整した後の外来では、症状が改善したためか、不信感は多少和らいだようだった。

誠心誠意を尽くしても、彼女は冬にはまたテキサスに戻るため、診療の継続性を保つことは難しい。糖尿病の合併症などで働きに来られなくなっても、こちらはそれを知る由もない。“一時限り”の医療しか提供できないことへの葛藤を抱えながらも、できる限りのことをやっていく。その意義は思いの外、大きいと信じて。

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