2010年6月3日、エンパイアステートビルのライトアップはオレンジと白。その日、ニューヨーク大学病院で長男が誕生しました。妻の妊娠から出産まで色々なことがありました。そんな自分の経験を、医師の視点から振り返ってみようと思います。
妻の妊娠が分かったのは2009年9月、ニューヨークで研修を始めて3ヶ月が経った頃でした。最初に決めるべきは、もちろん産婦人科医。出産経験のある知り合いや、先輩医師から情報収集です。幸運なことに、近くに開業している日本人の先生がいました。その先生はニューヨーク大学病院と提携していて、お産の際にはそこに入院するので安心です。また日本人医師の間でも信頼が厚く、医療関係者を含め多くの日本人がそこに通っています。
たまたま近くに良い先生がいたので、産婦人科医を選ぶのに苦労はしませんでしたが、特に海外在住では良い先生を見つけるのが難しいこともあると思います。そんな場合、皆さんはどうやって医者を探しますか?
「○○科の良いお医者さん知りませんか?」と聞かれることがよくあります。良いお医者さんの探し方は、恐らくそれがベストだと思います。医師の僕でも、医者を探すときには知り合いの医師に聞きます。「餅は餅屋」と言われる通り、同業者が最も内情に詳しいですし、正当な評価を下せることが多いからです。自分の信頼できる医師自身がかかっている、もしくはその医師が推薦する医師、これ以上信頼のおける判断基準はないのではないでしょうか。
患者さんからの評判と、同業者からの評判は必ずしも一致しません。それは両者の評価基準の違いによると言えるでしょう。一般の方は、医師の人当たりのよさ、優しさ、説明の上手さ、分かりやすさなど、外から見える能力を重視すると思います。一方で医師は、医学知識の豊富さや他の医療機関との連携など、なかなか外からは見えにくいところを重視する傾向があります。
医師の評価は内輪になる、すなわち自分と仲の良い人を過大に評価する危険性はあります。また、一般の人が重視するコミュニケーションやカスタマーサービスなど、顧客満足度に直結する部分を軽視する傾向もあるかもしれません。しかし恐らくそれでも、医師同士の評価の方が一般人のそれより信頼性が高いでしょう。それは評価基準の複雑度の違いによる、と言えるかもしれません。
医師は医療行為に伴うあらゆる可能性を考慮する傾向があります。お産であれば、順調な分娩を望むのは誰もが同じですが、それより先の可能性、すなわち、早産、早期胎盤剥離、緊急帝王切開、処置後局所感染症、などなど、これらは全て「正常なお産に伴う可能性のある」合併症であり、そこに対する考慮の度合いが、一般の方とは違うと思うのです。それらを知った上で、自分の信頼できる医師は誰か、その尺度で評価します。そして医師同士の間で信頼を獲得するにもコミュニケーションは必須ですので、それを評価基準に入れていないわけではありません。
同様の理由で、インターネット上の評価サイトを見て医師を選ぶのも、僕はお勧めしません。僕も米国では「Yelp」、日本では「ぐるなび」なしにはどこで食事するか決められないくらい評価サイトを多用しますが、医師をレストランと同列に評価できると考えている人がいるとしたら、考え直すべきだと思います。そのような評価は、医師が提供する医療行為のうち極めて限定的な側面を反映しているに過ぎません。
顧客満足度は医療においても大変重要な指標です。しかしながら、愛想はいいけど不勉強な医師より、ちょっとくらい愛想が悪くても納得できる医学的判断を下せる医師に、僕ならかかりたいです。もちろん両方に長けているに越したことはありませんが。
「知り合いの医師がいない場合、どうしたらいいの?」と言われそうですが、ネットワークを駆使してどうにかする!としか言えません…すみません。あめいろぐでそのようなサービスを提供できたらと思いますが、それは検討課題ということで…
自分の身の回りに信頼できる医者が居るというのは、人生を歩んでいく中では重要なポイントになります。日常的に信頼できる医者を探し、親交を深めておくのは賢明な生き方ですね。人は病気になってから慌てふためいています。かすを掴むのです。
野崎病院 藤林
僕は信頼できる弁護士もいたらいいに違いないだろうなあと思っていますが、言うは易しで、意外と難しいものですね。やっぱり必要にならないと本気で探そうとしないらしく、わが身ながら反省しております。
妊娠も出産も、女性のごく普通の生活の一部であって、病気ではない場合がほとんどです。
病気を診察していただくための医師選びと同じ目線だけでは論じられないのではないかと思いました。