日米の研修医の働き方の大きな違いの一つは、夜勤(ナイトフロート)制にあります。日本で夜勤というと、日勤から継続する24時間当直を指すことが多いと思いますが、米国では研修医が24時間当直をすることはどんどん少なくなってきています。今まであった週80時間の労働制限に加え、特に今年、ACGME(米国で卒後研修カリキュラムを規定する組織)が定める要件が変更され、研修医一年目(インターン)は24時間当直をすることが一切出来なくなりました。
そのため、米国では研修医は夜勤制を取らざるをえません。夜勤制は、救急のシフト制をイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。そのシフトにあたる研修医は、例えば二週間、夜8時から朝7時まで夜だけ働きます。日勤の研修医は、一旦夜勤の研修医に引継ぎをすれば、夜に呼び出されることはありません。これは「24時間当直で睡眠不足の研修医がミスをする確率が高い」という研究結果に基づいていますが、研修効果という側面から賛否両論(特に外科などの現場からは否定的な意見も多い)あります。
日米双方の研修医として働いた私の考えでは、医療安全・研修医教育・研修医労働環境の面において、夜勤制はメリットがデメリットを上回ります。夜間に担当医でない医師が患者の対応にあたるというデメリットはあるものの、日勤の研修医が「いつ何時呼ばれるかもしれない」という不安なしに睡眠を取れる、寝不足の解消により日中の教育効果が高まる、寝不足による判断ミスが減るなどのメリットがあります。夜勤の研修医にとっても、夜間の病棟管理はとても良い経験になります。また、夜勤の研修医をおくことのメリットは、上級医にもあります。日中にたっぷり睡眠をとった研修医が病棟をカバーしてくれていれば、細かいことでいちいち呼ばれません。
日本では米国のように労働時間を制限する、24時間当直を禁止する、などの施策は非現実的であり、また教育効果という観点からも導入すべきとは思いません。しかし、実施可能な病院で夜勤制を検討するのは有効ではないでしょうか。
夜勤制を導入するには、ある程度の数の研修医が必要になります。また、夜間業務に専属の人員を置くので、日中業務を担当する人数が減ります。したがって毎年20人以上の研修医が集まる教育病院でないと、恐らく導入は難しいでしょう。さらには、科によっても状況は違うはずです。一度に10人の研修医がローテートする200床の内科であれば、夜間に一人か二人の研修医を割くことは可能かもしれません。しかし、研修医が3,4人しかいない50床の小児科では難しいでしょう。こう考えると、現状で夜勤制はかなり限られた範囲でしか適応できなさそうです。
本当に夜勤制を導入したいとしたら、もう少し発想の転換が必要かもしれません。
(次回に続く)
今週たまたまナイトフロートの眼科レジデントです。アメリカで注目されているホットなトピックを紹介して下さって有り難うございます。1984年、ニューヨーク病院のザイオン事件から成り立った制度ですね(http://en.wikipedia.org/wiki/Libby_Zion_law)。アンケートなどによると研修医の精神衛生にはいいみたいですが、はたして実際医療ミスの減少に繋がっているかどうかは、様々な論文は出版されていますがまだはっきりしていません。今年の夏に日本の前期研修に相当するインターンシップを終えました。一人で40−60人の患者をカバーするには、日勤チームからとてもいいhand off/sign outが一番大切なことだと思いました。
サインアウトの重要性、分かります。効果的かつ効率的な情報の伝え方を自分もさらに勉強しなければと思いますが、本当に難しいです。