アメリカでは、夫(家族)の付き添い出産が一般的です。分娩室で家族が出産に立会います。立ち会うと言うより、手伝うという方が適切かもしれません。妊婦さんの体を支えたり、呼吸法を一緒にしたりと、ベッドサイドで出産そのものに参加します。へその緒を切らせてくれることが一般的です。ビデオを片手に記録だけっていうのはちょっと無理でしょう。
普通の分娩では2泊、帝王切開では3泊で産院から退院するのが決まりです。それ以上の入院は保険会社がカバーしませんので、退院しないととんでもない額の請求書があとから来ます。ですから、出産前から家の中の準備を整えておいて、出産後すぐ帰ってくることを想定しておいてください。ただし、医療上の理由で退院できない場合はカバーされます。
産まれたばかりの子供は元気な状態であれば”カンガルーケア”をさせてもらえます。ささっと体を拭いて基本的なチェックが終わったあとに、お母さんの胸の上に裸で置いてスキンシップします。その際、最初の授乳を試みます。とっても、初乳が出るとは限りませんので、何よりも親子の対面の時間を大切にしてください。
その後、赤ん坊はもう一度きれいに拭いて、体重を測りビタミンKの注射を太ももにして、目に抗生物質の入った軟膏を塗ってもらい、おくるみに巻いてもらいます。産まれてから数時間は赤ん坊も出産時に使った体力を回復するため、すやすや寝るのが普通です。母親もここで寝て体力を回復しましょう。
出生一日目の赤ん坊の仕事は、母乳を飲むことと、泣くことと、寝ることと、ウンチおしっこをすることです。特にウンチをしっかりすることは大切です。ウンチが最初の1-2日に出ないというのは、めったに無いことですが、特殊な病気の兆候の可能性があるのでわれわれ小児科(消化器科)は特に気をつけてみています。
母乳を飲むことは、想像するよりも何かと困難が待っています。赤ちゃんが吸わないと母乳が出ないし、母乳が出ないと赤ちゃんも上手く吸えません。赤ちゃんとの共同作業です。なかなか最初は上手くいかないでしょう。いろんな方法がありますが、出産直後の入院中では”Lactation Consultant”といって、”授乳専門ナース/栄養士”がいますから、その人に部屋に来てもらって指導してもらうのが一番でしょう。本やネットでも色々と説明されています。さらには、家に帰ってから1週間以内に、まるで家庭教師のように100-200ドル払ってそのLactation Consultantに家に来てもらって2-3回指導して貰う人も多いです。口コミ情報になってしまいますが、私の同僚(みな小児科医)も自分の出産の時に、この指導を受けてとても有効だったといっています。
その後、書類手続きをします。出生証明書を発行してもらうための書類に記入し、退院前にその書類を担当ナースに渡すと、後日自宅に”Birth Certificate”がとどきます。これはとても大切な書類なので、しっかりと保管してください。それから、親の加入保険会社に電話して子供が産まれたことを告げ、その子供をDependentとして登録するように申請します。これで、今後のこどもの医療費がカバーされるようになります。出産直後の2-3日の入院代もさかのぼってカバーされるはずです。
さらに、退院前には新生児スクリーニングテストをしなければいけません。ナースが、赤ん坊のかかとに小さな傷をつけて採血し、州のセンターに血液サンプルを送ります。1-2週間後に結果が出ます。異常だった場合はかかりつけ小児科医に連絡が行くようになっています。
もう一つ大事なこと。子供は出産後から体重が減少します。あまり急激に体重が減少してないことを確認してから退院となります。あまりに母乳が出ていなくて、体重が減ってしまった場合は粉ミルクで補給することもあります。産まれたばかりの子供はお腹が減っても泣き続けることが出来ず、体力が低下しすぎると摂食もできなく、危険な状況なることがあるので、完全母乳保育にこだわらずに粉ミルクの助けを一時的に借りることが必要な場合があります。
そして、晴れて退院となったら、カーシートを持ってきてください。退院はカーシートに乗せてからという決まりになっています。車で帰るのが普通だからです。カーシートの使い方のレクチャーもしてくれます。
無事に家についたら、ひとまずゆっくり休んでください。戦いはこれからです。