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青柳有紀

ブログについて

アメリカで得られないものが日本にあるように、日本では得られないものがアメリカにはある。感染症、予防医学、公衆衛生学について、ニューイングランドでの日常を織り交ぜつつ、考えたことを記していきたい。

青柳有紀

Clinical Assistant Professor of Medicine(ダートマス大学)。国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒(学士編入学)。現在、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびルワンダ共和国医師。米国内科専門医。米国感染症専門医。米国予防医学専門医。公衆衛生学修士(ダートマス大学)。

昨年11月初旬から4週間にわたり、中部アフリカに位置するルワンダ共和国において、HIV診療および臨床医学教育に従事する機会に恵まれました。

 

ルワンダは、26000平方キロメートルほどの小規模な国土に、1千万近い人々が暮らす、アフリカ諸国の中で最も人口密度の高い国です。多くの方々の記憶にあるように、1994年には長年にわたる民族的対立を背景に、急進派フツ族により100万人におよぶツチ族および穏健派フツ族が虐殺されるという稀に見る悲劇が起こりました。現大統領であるポール・カガメが率いるルワンダ愛国戦線(RPF)の勝利により内戦状態が終結し、新政権が発足して以降は、周辺諸国に難民として逃れていた人々が帰還し、現在のルワンダは「アフリカの奇跡」とまで形容される経済発展を遂げつつあります。しかしながら、医療分野における物的および人的資源は多くの医師および医学生が犠牲になったジェノサイド以降、厳しい状況にあり、サハラ以南のアフリカ諸国に共通する問題であるHIV、結核、マラリアの流行にともない、これらの感染症診療に秀でた医師の育成が早急に求められています。

 

現在、ルワンダ政府は、米国の主要な大学医学部および教育病院と協力関係を結び、医療従事者への臨床教育を充実させるために、様々な人材育成を行っています。今回、私はメリーランド大学のInstitute of Human Virologyのチームの一員として、首都のキガリ市内にある大学付属病院(Centre Hospitalier Universitaire de Kigali, CHUK)でのHIV診療と臨床医学教育、およびルワンダ第2の都市であるButareで開催されたHIV指導医育成のためのトレーニングに従事しました。アフリカ大陸に戻るのは、以前暮らしたナミビアを離れて以来なので、12年ぶりのことです。以前から「次は感染症医としてアフリカに戻ってくる」と決意していたので、キガリの空港に到着した時の気持ちは感慨深いものでした。

 今回の活動は、away electiveとしてダートマス大学教育病院の卒後研修プログラムの合意のもと、所属している予防医学レジデンシーで要求されている360時間の”Governmental and Public Health Experience”の一環として認可されたものです。米国のフェローシップおよびレジデンシー・プログラムでは、このように数週間から、場合によっては1年以上も海外で臨床や研究に従事することも可能です。

District hospitalにおけるHIV診療指導医講習の様子

 

到着した翌日に、現地で臨床行為を行うためのテンポラリーな医師免許の申請を行いましたが、現地のスタッフの協力もあり、数日後にはライセンスも無事に下りて、以降の全ての活動も円滑に進みました。

 予想していた通り、首都の大学病院とはいえ、利用できる検査や医療機器、薬剤は極めて限られており、「丁寧な病歴聴取と(五感を総動員した)診察」という基本に立ち返った診療が求められました。ないものを嘆いたところで生産的な結果にはつながりませんが、あるもので目の前の患者さんたちに何ができるかをレジデントや医学生とともに必死に考えることは、厳しい状況の中でも充実感に満ちた経験でした。また、少しでも自分たちから知識や技術を吸収しようとする彼らから、私自身も多くを学んだように思います。

 

内科病棟における朝の回診風景。症例のプレゼンテーションは医学生を中心に行われる。

 

ルワンダにおけるHIVの罹患率は3%と、他のサハラ以南の国々と比較して低いものの、これは未だ公衆衛生上の緊急事態の域を出るものではありません。また結核やウイルス性肝炎との重複感染例も数多く目にしました。ただし抗レトロウイルス薬の普及は進んでおり、状況は少しずつではあるものの改善されつつあるという印象を受けました。

 

ある日の内科病棟におけるmorbidity and mortality (M&M) conferenceにて:HIVとTBによる死亡例が多い。

途上国における医療および医学教育は、「限られた資源の中でいかに最大限のアウトカムを生み出すか」という命題を常に内包しています。それは困難な命題ですが、だからこそ自らの職業人生をかけて取り組む価値があるものだとも思います。今回のルワンダでの経験は、6年間におよぶアメリカでのトレーニングの向こうにあるものと、これまで自分が築いてきたものを現実的に照らし合わせ、近い将来のキャリア・ゴールを再確認する貴重な機会となりました。

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