2020/09/03
COVIDの第二波が来た!病院の予測能力と分析力が問われている(後編)
ハワイでの第二波はまだ収束の目処はつかないまま、8月が終わりました。コミュニティでのロックダウン条例は続いており、学校は登校禁止、そして今週からホノルル市が主催する全市民対象(無症状含む)のPCR検査があちこちで提供されています。これは市民が自ら前鼻腔スワブを実施し、ホノルル市が集め、カリフォルニアの検査会社に送り、結果はEメールで返ってくるというものです。
前編では行政と病院の対応についてまとめました。
後編ではホスピタリスト部門がどのように現在対応しているのかを紹介したいと思います。
毎日のように状況が変わって対応も流動的なので、数週間後にはまた変わっているかもしれません。
1)COVID専用病棟/ICUの拡充と担当ホスピタリストの増員
以前のブログ記事に、COVID専用病棟の計画について書きました。
当院では全個室の24床を単一ユニットとする病棟をCOVID専用に割り当てて対応してきましたが、今回の第二波の症例数増加に伴い、8月にはこのユニットが5つまで増えました。全部で120床のキャパシティです。
オアフ島全体で毎日のように200−300名近くの新規患者が報告される中で、病院ではそこから2週間ほどずれて入院患者が増加してきました。
毎日15名近くのCOVID患者が入院してくる状況で、焦りもありましたが、のちに述べる対策でなんとか爆発的な増加は防いでます。
現在は、一般病棟には70-90名、ICUには15-20名のCOVID患者が常に入院中の状況です。
4月の第1波では想定していましたが、実施しなかった事態が現実になりました。しかし、PPE(個人防護具)の充足と病棟計画を綿密に想定していたおかげで急な変更にも対応できました。看護スタッフも戸惑ったとは思いますが、辛い状況を受け入れてジョークを飛ばしながら仕事している姿を見ると頼もしさを感じます。
COVID専属診療に当たるホスピタリストも、最初は2名から開始したものの、現在では毎週8名まで増え、COVID患者以外を担当するホスピタリストの方が少ない状況になりました。一人当たりの担当患者は12名までとし、連続勤務も1週間とすることで燃え尽きや疲労による感染防御プロセスのミスを防ぐようにしています。
(ホスピタリストは元々が1週間連続勤務してからの1週間休みというサイクルでした)。
1週間も勤務すると、心身ともにヘトヘトになる印象ですので、そのあとの1週間休みは本当にありがたいです。幸い、大規模な院内感染などでホスピタリストの欠員はないのですが、万が一そのような事態になった時には、1週間休みの組みが補充要員として控えているのも安心です。
困ったのは、心電図を連続モニタリングするテレメトリーと呼ばれる病棟のキャパシティでしたが、第一波の後からテレメトリー病棟勤務ができる看護師の再トレーニングをしていたおかげで対応できました。ほとんどの病棟が個室なのですが、一つの病棟だけが二人部屋なので一時的にそこもCOVID陽性患者同士で相部屋にする事態になりました。
来たる第3波とインフルエンザの季節に備えて、最上階の病棟を急ピッチで陰圧隔離室の増加や感染制御に重点をおいた改築工事しており、12月に工事終了予定です。
2)COVID病棟での治療管理プロトコル
数ヶ月が経ち、自宅隔離中の患者へのテレヘルスセンターからの電話フォローアップ(全例に携帯型酸素飽和度モニターを提供)からの状態悪化時の救急紹介受診、入院、退院調整、退院後の自宅モニタリングのシステムが構築されてきました。
ここでは、病棟管理に限定して、今どういったことをしているのかを紹介したいと思います。これも数週間後には変わっているかもしれません。
- 酸素療法と伏臥位
皆さん低酸素血症にて入院してきますので、酸素療法が治療の根幹になります。
前情報の通り、低い酸素飽和度(85%前後)でもケロッとしている患者がいます。適切な用語ではありませんが、”happy hypoxia”と称される所以です。
酸素化が回復するのには時間を待つしかないのですが、伏臥位(読み:ふくがい;いわゆる、うつぶせ寝)をすると良い印象です。起きていても、伏臥位をしてもらいます。
高齢であったり、肥満であったりすると伏臥位になるのも大変な印象ですが、病棟では4時間毎のサイクルで1時間の側臥位と2時間の伏臥位をローテーションするプロトコルを実践しています。
在宅酸素がオーダーできる基準が緩和され、酸素化の回復が遅れているが全身状態が良くなった患者は自宅安静もしやすくなりました。
- 看護オーダーのスリム化とインターホンの利用
入退室の回数を減らすためにも、投薬時間(当院では8時、14時、20時に限定)やバイタル測定、体重測定、血糖測定、体位交換、を決まった時間にまとめたり、インターホンで必要なものがないか(多くの場合、水や氷をリクエストされました)を先に聞いてから入室するようにしていました。
ここでは医師も看護師もPT/OTも関係なく、お互いの仕事をサポートしながら、PPEを来ている状態の人が「ついでに」色々なことをしています。輸液ポンプの扱い方とトラブルシューティングをもっと教えてもらっておけばよかったと思う場面がたくさんありました。
採血やレントゲンなどの画像検査はなるべく高頻度ではしないようにしていますが、肝機能や炎症反応のモニタリングはしています。
- 抗ウィルス薬レムデシビル
肝機能や腎機能での制限はあるものの、酸素投与を要するほとんどの入院患者に入院初日から投与していました。
FDAによる緊急承認薬のため、感染症医が患者に説明と同意を経てから、薬剤部が調剤していました。このプロセスは、ERにいる時点から薬剤部がスクリーニングをして、適応がありそうな人をリストアップしてくれるので、ほぼほぼ自動化されていました。
5日間の点滴投与中は毎日肝機能を採血でモニタリングしていましたが、比較的副作用の少ない薬の印象です。幸い、ギリアード社からの供給は不足することなく、ここまで至っています。
- 回復者血清(臨床試験)
英語ではConvalescent plasmaと呼ばれますが、すでにCOVID-19にかかって回復した患者さんが献血した血清を投与する療法です。
回復した人の血清にCOVID-19と戦うための抗体が含まれることを期待しての治療法ですが、効果の保証はまだありません。
当院ではメイヨークリニックとの共同臨床試験という形での参加でしたので、ホスピタリストが共同治験者として登録をし、説明と同意を経たのちにマッチする血液型の血清投与をしていました。小児サイズの小さい血清バッグを入院時に単回で投与します。
これも副作用が少ない治療法の印象ですが、リスクはあります。言語の壁や認知症などがあると説明と同意が容易ではなく、来院できない家族に電話で説明して、スキャンした同意書にサインをしてまたメールで返してもらうような手間も必要でした。
8月末の時点で臨床試験への新規患者登録が終了したので、もう提供できないと思ったのですが、FDAが緊急承認をしたので現在では担当医の裁量で投与は続けられます。最近のデータでは効果が乏しいと出たので、今後はどうなるのかはわかりません。
イギリスの製薬会社が提供する高濃度免疫グロブリン(Octagam 10%)を代わりに使用する米国の臨床試験もあるようで、参加を検討しています。
- デキサメタゾン
RECOVERY試験をもとに、当院では酸素化がどんどんと悪化する後期の状態でデキサメタゾンという高力価のステロイドを24時間ごとに6mg静注もしくは経口投与を10日間するプロトコルを採用しています。
最初の方はICUでの限定使用でしたが、最近ではICUに行く閾値が上がって、ホスピタリスト病棟でも高濃度酸素療法をするようになったためにホスピタリストがオーダーしたり、転院搬送までにERで投与開始しています。糖尿病の管理が悪いケースだとステロイドによる高血糖や糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の発生を注意深くモニタリングします。パシフィックアイランドなどの特定の地域生まれの患者さんだと、糞線虫(読み:ふんせんちゅう;英名Strongyloides)という寄生虫感染の増悪のリスクがあるので、注意です。糞線虫の抗体をオーダーしても結果が戻るまでに時間がかかるので、ハイリスク群には予防的にイベルメクチンなどの駆虫薬を投与するかどうかは、まだ議論が分かれています。
最近JAMAという医療雑誌に、ステロイド投与の効果を示すエビデンスが掲載されたこともあり、安価で入手しやすいこの薬の使用頻度は増えそうです。
レムデシビル(5日間)やデキサメタゾン(10日間)の治療期間を全て完了する必要があるのか、退院できる状態と場合には途中で止めてもいいのか、などの疑問があります。
- 深部静脈血栓(DVT)予防
COVID-19にかかると、体内で血栓ができやすいと言われていますし、実際にそのような印象なので予防は大事です。これは血管内皮にウィルスが直接感染することや高い炎症反応の影響など色々な要因があります。
入院中には、肥満(BMI>30) やD-dimer高値の所見があると低分子ヘパリン製剤を普段よりも高濃度で投与(エノキサパリン12時間ごとに40mg皮下注射)するように院内で統一されています。これは米国胸部学会のガイドラインとは異なる対応ですが、院内の委員会で決められたことです。少しでも血栓の証拠があると、躊躇することなく予防量ではなく治療量の抗凝固療法を提供しています。
- リハビリ
高齢患者は特にそうですが、肺炎症状とともに、食欲不振、下痢、脱水、倦怠感、味覚や嗅覚の消失など、とにかく動けない、食べられないことからの全身状態悪化が目立ちます。入院して最初の3日間くらいは全くベッドから動きたくないし、話もしんどい様子が見られます。
ようやく回復の兆しが見えた頃には廃用が進んでいるため、そこから離床を促していくのが大変です。酸素化が悪い人は、安静時にはいいけれど、少しでもトイレに立つと息切れがするようです。
特にICUにいた人は、回復までに相当時間がかかる印象なので、どうしても入院期間が長引きます。ホスピタリストとしてできることは少ないかもしれませんが、会っている間は一緒に離床を手伝うようにしています。
- 退院調整
自宅に支援してくれる家族がいて、隔離できる個室があるならいいのですが、独居の高齢者、ホームレス、同居家族はCOVID陰性などの事態があると、簡単には退院ができません。さらにCOVIDで弱ってしまったため、リハビリを要する場合も、コロナウィルスPCRの陰性化を証明できないとナーシングホームへの短期入所ができません。結果として、COVID症状が回復したのに廃用症候群のために自宅にもリハビリ施設にも行けない状態で長期入院するケースが増えました。
最近ではナーシングホームと交渉をして、コロナウィルスPCR陽性者用の建物を用意してもらって、何人かまとめて転送することになりました。ホノルル市の調整で、COVID19感染者用のホームレスシェルターも用意されました。大家族で住んでいる場合には、退院後に単身で隔離継続ができるようにワイキキ周辺のホテルも用意されました、まだまだ不足している印象です。
地域でのコンタクトトレーシングは地域の保健局(Department of Health;DOH)が担当しているのですが、そこからの情報提供がなく、医療スタッフは患者や家族に問い合わせるしかないので、オンラインで公的機関との情報連携がうまくいくシステムが欲しいものです。
- 院内での隔離解除
退院先が見つからなくて長期入院になった患者がずっとCOVID-19専用病棟にいると満杯になってしまい、次の急性期治療が受けられる患者の受け入れに支障が出てしまいます。そこで、CDCの「症状に基づいた隔離解除基準」を適応して、PCR検査でまだ陽性の状態でも症状の消失を確認してCOVID-19病棟から一般病棟へ移すことが始まりました。
これは免疫状態と症状の重症度に応じて、症状発症日から10日間、もしくは20日間で隔離解除をするというものです。入院を要する方のほとんどは「重症」のカテゴリに入るので、多くの場合は発症日から20日間で隔離解除(無症状の場合は、最初のPCR陽性日から10日間)を選択します。隔離解除の決定は、主治医のホスピタリストもしくは感染症コンサルタントが決め、院内の感染制御部が電子カルテの隔離オーダーを消すという手順で行われます。
「昨日まではN95マスクで対応されていたのに、今日から普通のマスク対応で良い」などと言われても、受け入れる側の病棟スタッフにとっては不安が強く、しばしば反対を受けることもあります。
中国や韓国からの多くの症例報告を読みましたが、いつまでもPCRが陽性となるケース、もしくは一旦陰性となったPCRが陽性となるケースでは、症状発症から8日間以降はPCRが陽性でもウィルス培養では生えない、いわゆる「死んだウィルス」粘膜上皮細胞内にトラップされたわずかなウィルス遺伝子断片を拾っている(Ct値が高い)場合が多く感染性はとても低いことがわかりました。最長では80日間近くPCRが陽性と検出される人もいるようです。
心理的な不安感は十分に理解できますが、科学的な根拠を伝えて病棟スタッフに丁寧に説明すると納得してもらえます。今は全ての入院患者に対してスタッフはマスクとゴーグル、手袋の対応で統一されています。医師自らが恐れずに隔離解除の患者の部屋に普通のマスクをして入室していく姿を見せるのも有効でした。
こういう症例を繰り返し見ていると、「PCR検査が陰性にならないと入所させない」ナーシングホームの基準は、根拠に乏しいと思ってしまうので、早く変えて欲しいと思います。
- 隔離患者の心理的ケア
COVID-19で入院された患者は全身状態不良、状態悪化への不安を抱える中で面会者も来れず、大きな不安と動揺の中で入院されています。医療スタッフが全員物々しいマスクやガウンで入室すると誰が来ているのか分かりにくいと思います。食事のトレイも全て使い捨ての紙製のもので、味気ないです。普段ならちょっとした通訳や日常生活品の持ち込みを家族に依頼できたものもできず、なかなか大変です。
当院ではタブレットをたくさん用意し、家族とスカイプやフェイスタイムなどのビデオチャットをできるように患者に提供しています。医療従事者と患者家族が話をする場合には個人の医療情報の交換がされるので、doxy.meやcloud breakなどといった個人情報保護の基準を満たしたビデオチャットアプリを利用しています。このように、日常生活とかけ離れた異質な環境にいる高齢患者の認知機能への影響、せん妄誘発は大きな懸念です。
2)COVID患者の転院調整と救急搬送の輪番制
オアフ島では当院が最もCOVID患者を受け入れていましたが、どんどん増える状況の中で当院の負担が大きくなり、キャパシティを超えてしまうと他にも提供している高度先進医療がサポートできなくなる事態を懸念して、行政との調整が始まりました。
イメージとしては、京都市と同程度の人口規模と面積の地域に、急性期総合病院が5つ、そして毎日の新規症例数(300前後)が東京都と同程度の状況と思ってもらえれば分かりやすいかもしれません。
全ての急性期総合病院のCEO(病院長)と医療保険機関が集まって相談した結果、当院の他の病院でのCOVID患者の受け入れ数を増やし、ある程度落ち着いた病状のCOVID患者を急性期の病院間で転送することが始まりました。以前では考えられないプロセスです。
また、救急隊が搬送するCOVID患者も日中は輪番制で運ぶようになりました。
3)病院間転送する民間救急隊の不足
当院と同系列の分院がオアフ島の西側にあるのですが、COVID患者が島の西側地域に集中していることから、そこの救急室によく搬送されていました。
15分間で結果の出る迅速キットで確定されたCOVID患者は、前は当院に転送していましたが、それを担当する民間救急隊のキャパシティを超えてしまい、転送の遅延が発生するようになりました。
どうしてかというと、COVID陽性となった透析患者を週3回外来透析センターに運ぶのを他の会社が拒否し始めたことで、この会社の負担が大きくなったからです。
打開策として、分院でもCOVID入院が始まりましたが、分院のICUキャパシティが少ないため、あまりたくさんは入院できません。
4)看護スタッフの不足
平常時と比較して、一人のCOVID患者さんにかかるスタッフ数と労力は約3割増加するという印象です。なので、いつもよりも多い看護配置(主に1:3もしくは1:2看護)を要するし、看護スタッフの燃え尽きを防ぐためにも超過勤務は避けたいところです。
ハワイ州では派遣団体を通じて米国本土からの応援勤務ナースの手配が始まり、当院でも少しずつトラベラーナースの姿を見るようになりました。いつもとは違う勤務環境と緊張度の高い場所ですが、高い使命感で力強く働いています。
まとめ
- 後編では第二波で負担の高くなったCOVID病棟での臨床業務の実際と印象を簡潔に紹介しました。
- 院内プロトコルの調整に数ヶ月をかけて取り組んできましたが、実際に始めると予期せぬ不具合や心理的抵抗などがあり、大変でした。
- 人海戦術を要するため、普段からの病棟管理の標準化、スタッフのチームワークが本当に大事だと感じます。
- これだけ関わるスタッフが増えてくると、どこかから院内感染が広がっても全然おかしくはありません。疲弊と燃え尽きを防ぐことが重要です。
- 米国の日常診療は、多くの職種が短期間に集中して患者ケアをすることで在院日数を短縮するというスタイルでしたが、COVID患者管理においては大幅に考え方を修正し、限られたスタッフ数で柔軟に対応するしかありません。
- 高齢患者の廃用症候群は大きな問題であり、COVID-19陽性後の後方支援施設との連携は今後も交渉が必要です。
- 病院間転送する輸送システム、後方支援リハビリ施設のCOVID-19患者受け入れ、ホームレス隔離シェルター、公的機関とのコンタクトトレーシング情報連携など、地域との連携の課題があります。