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ブログについて

ハワイは温暖な気候と全米一のCultural mixが見られ、医師としての幅広さを養うにはいい環境と感じています。
旅行だけでは見えない、ハワイ在住の魅力もお伝えできればいいなと思います。

野木 真将

兵庫県出身、米国オハイオ州で幼少期を過ごす。京都府立医大卒、宇治徳洲会病院救急総合診療科の後期研修を修了。内科系救急を軸とする総合診療医として活躍したい。よきclinical educatorとなるため、医師としての幅を広くするため渡米。2014年よりハワイで内科チーフレジデントをしながらmedical education fellowshipを修了。2015年よりハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして勤務中。

野木 真将のブログ
2020/03/10

COVID19に対する治療薬研究の最新情報(3月)- 人工知能も応用して既存の治療薬から候補を予測!

前回のブログ記事で1月末時点での治療薬やワクチン研究の情報をまとめました。
今回も米国にいる自分が入手できる現時点で得た情報から要点をシェアしたいと思います。
ホスピタリストとして勤務する上で重症の入院患者に対応するケースが多いと予想しているため、出来るだけ治療薬の選択肢は把握しておきたいです。
公衆衛生の観点から、全国の患者数や死亡統計は次々と報道されますが、そういった統計からは見えてこない臨床現場での葛藤があります。何がなんでも「目の前のこの患者を救うには?!」と日々奮闘する中で、エビデンスがまだ確立していない段階でも、治療を進めないといけない場面が出てくるでしょう。
そういった中で、世界中で試みられている治療選択肢の知識を共有するのは意味があると思い、以下をまとめています。
専門的な内容が多いですが、感染症専門医でない自分が理解している範囲で説明したいと思います。

既知の薬が有効かどうかを予想する(repurposing)

新薬を一から作る時間よりも、安全性試験も終了している他の薬剤が今回のSARS-CoV2(COVID19の原因ウィルスの正式名称)に有効かどうかを予想して臨床試験に望む方が時間が節約できます。キーとなるのは、ウィルスの「遺伝子情報(ゲノム)」、「タンパク構造」、そして「ウィルスの侵入経路と増殖メカニズム」を理解する事です。

アウトブレイク初期から中国では抗HIV薬であったritonavir/lopinavir (商品名:カレトラ)とα-インターフェロンの併用療法を試みており、中国の治療ガイドラインにも登場しています。
米国での第一号患者となった方もRemdesevirというエボラウィルス用に開発された薬剤を投与され、未だ入院中ではありますが呼吸状態は安定してきていると最近のNEJM誌に報告が掲載されていましたね。

最近では我々のSARS-CoV2に対する理解は深まり、次々と治療効果の可能性のある薬剤が中国での臨床試験に採用されています。

どの構造蛋白を狙い撃ちするか?

SARS-CoV2は、ウィルス構造学的には、脂質2重膜の囲まれているエンベロープ(enveloped)と呼ばれる外膜の中に, Nucleocapsid (N)蛋白に巻きついたプラス鎖の一本鎖RNAを持ちます。電子顕微鏡で見たときに表面に突起が見られ、その形態が「王冠」Crownに似ていることからギリシャ語の”corona”という名称がつきました。この突起の蛋白は、Spike (S), Envelope (E), Membrane (M)などに分類されます。また、ウィルスのゲノムサイズはRNAウィルス最大級の30kbあります。遺伝的特徴からα、β、γ、δの4種類に分けられ、今回のSARS-CoV2はMERS, SARSと同等のβコロナウィルスに分類されます。

これらの蛋白を標的とする治療薬を見出し、ウィルスの存続をできなくするのが目的です。狙うべきは以下の3つ。

1)ウィルスの増殖に必要な非構造タンパク(3-chymotrypsin-like protease [3CLpro], papain-like protease, RNA dependent RNA-polymerase)
2)ウィルスの細胞内侵入に必要な構造タンパク(capsid spike glycoprotein)
3)補助タンパク

ウィルスの増殖に必要な非構造タンパクを狙い撃ちする治療薬

冒頭に紹介したritonavir/lopinavir (商品名:カレトラ)darunavir/cobicistatは、HIVのproteaseという酵素を阻害する薬として開発されましたが、コロナウィルスの3-chymotrypsin-like proteaseという非構造タンパクをも抑制すると考えられています。HIVはコロナウィルスと同じRNAウィルスであり、その治療薬は逆転写酵素(reverse transcriptase)を標的にするものが多いのですが、残念ながらコロナウィルスにはこの逆転写酵素はありません。
なので、現在のritonavir/lopinavirを用いた臨床試験の多くは、他の抗ウィルス薬(抗インフルエンザウィルス薬のbaloxavir, oseltamivir, umifenovirなど)を併用しているものが多いのです。

どうせ非構造タンパクを標的にするなら、コロナウィルスが確実に使用するRNA dependent RNA-polymeraseのような酵素を狙った方がいいですよね。

それが抗エボラウィルス薬のremdesivir、抗インフルエンザ薬のfavipiravir(商品名:アビガン)、抗HIV薬のemtricitabine/tenofovir (商品名:ツルバダ)や抗C型肝炎ウィルス薬のribavirin(商品名:レベトール、コペガス、マイラン)などです。
ちなみにfavipiravirは富山大学と富山化学工業の共同開発による国産薬ですね。

特に、Remdesivirが有望視されており、実際、人体外(in vitro)でも、マウスモデルでもこの薬剤の効果は報告されており、複数の臨床試験が2月より開始されています。
4月の中間報告が待ち遠しいですね。

ウィルスの細胞内侵入に必要な構造タンパクを狙い撃ちする治療薬

コロナウィルスが宿主の細胞内に侵入する機序も解明されつつあります。
この段階を標的にしているのが、umifenovir, chloroquine, interferonなどです。
chloroquineなどは元々マラリア治療薬でしたが、他にもSLEなどの膠原病にも応用されていますね。
構造タンパクではないのですが、コロナウィルスの細胞内侵入に重要な酵素があります。
2月末に秋田大学のグループが白神山地の土壌から分離した微生物の作り出す酵素B38CAPを新型コロナウィルス治療薬の候補として論文報告したのを聞き、驚きました。
この酵素は高血圧の治療薬の標的として有名なアンギオテンシン変換酵素2(ACE-2)を標的としたものでしたが、なんとコロナウィルスもアンギオテンシン変換酵素2(ACE-2)を使用して細胞内侵入をするようなのです。
こうしてACE-2によるエンドサイトーシス経路を標的とする膠原病治療薬である、Janus-associated kinase (JAK)阻害薬に注目が行くわけです。
誰が注目したって?それはなんと人工知能です。Benevolent AIという英国のスタートアップ企業は、医学論文を機械学習させた人工知能を用いて、
日本で難治性関節リウマチに使用されるJanus-associated kinase (JAK)阻害薬であるBaricitinib (商品名:オルミエント)がコロナウィルスに有効ではないかと予想しました。実際に、Baricitinib (商品名:オルミエント)と、同機序のruxolitinib (商品名:ジャカフィ)がCOVID19に対する臨床試験に採用されています。
細かいことを言うと、baricitinibはAAK1 (AP2-associated protein kinase1)という酵素に親和性の高い薬剤4種(fedratinib, sunitinib, erlotinib, baricitinib)のうちの1つでした。
他のfedratinibは多発性骨髄腫用の治療薬、sunitinib, erlotinibは免疫チェックポイント阻害薬として抗癌治療に用いられており、肺炎の治療には不向きと判断されたようです。
例外として、免疫チェックポイントPD-1阻害薬のcamrelizumabが臨床試験に採用されています。
驚く事にAAK1を治療標的とする薬剤は全部で378種類知られており、うち47種類が医療認可を受けているようなので、まだまだ可能性は広がります。
他にもコロナウィルスが細胞内に侵入する際に用いるtransmembrane protease serine 2 (TMPRSS2)を阻害するcamostat mesylateの治療応用も検討されています。

コロナウィルスが引き起こす過剰な免疫応答を是正する治療薬

コロナウィルス自身の蛋白や使用する酵素の話とはまた別に、今回のCOVID19で死者がたくさん出る理由の1つに急速に進行するARDSという状態があります。
外敵に対して人体の免疫システムが迎え撃つ際に、サイトカインと呼ばれる連絡信号がたくさん出るのですが、戦火のように肺を急激に損傷させる病態、それがARDSと呼ばれるものです。
世界中の医師が救命のためには最終的にはこのARDSという状態と戦う事になるのですが、なかなか厄介な病態です。ARDSに特異的な治療薬はないため、免疫抑制剤の種類を使用してみます。
免疫応答や炎症は暴走すると重要臓器を損傷するのですが、外敵を駆除するのに必要なので、あまり抑え込むのは良くないです。このバランスが難しい。
そういった理論で、インターロイキン6(IL-6)と呼ばれるサイトカインの一種を抑えるtocilizumab (商品名:アクテムラ)に注目が集まっています。
これは大阪大学と中外製薬で共同研究開発された難治性関節リウマチ、クローン病、キャッスルマン病などで実績のある純国産の治療薬です。
中国やイタリアで最重症例への投与が認可されていますし、IL-6は血液検査で血中濃度が測定できます。
他にも、「炎症を抑える」という目的で、ciclesonide (商品名:オルベスコ)ビタミンCの大量投与ステロイドなども検討されています。

まとめ

まだまだ臨床試験の中間報告を待っている段階ではありますが、下記のような治療薬が候補として検討され臨床試験に採用されています。
候補として上がった薬の中には、他のウィルスに対して使用実績があるものもありますし、人工知能を利用した創薬や予測を応用したものもあります。
  • ASC09/ritonavir, lopinavir/ritonavir, with or without umifenovir
  • ASC09/oseltamivir, ritonavir/oseltamivir, oseltamivir
  • Azvudine
  • Baloxavir marboxil/favipiravir and lopinavir/ritonavir in combination(s)
  • Camostat mesylate
  • Darunavir/cobicistat alone or with lopinavir/ritonavir and thymosin α1 in combination(s)
  • Remdesivir
  • Chloroquine or hydroxychloroquine
  • Interferon alfa-2b alone or in combination with lopinavir/ritonavir and ribavirin
  • Methylprednisolone
  • Camrelizumab and thymosin
  • Tocilizumab

さらなる報告が出るまでは暫定的に、ジョンズホプキンス大学などでは最重症例に限定的でRemdesivir + Baricitinib (商品名:オルミエント) + tocilizumab (商品名:アクテムラ)などが試みられているようです。

2件のコメント

  1. SY より:

    野木先生
    とても勉強になりました。私は医師ですが、一般の日本人が読んでも勇気づけられる内容ですね。

    • 野木 真将 より:

      コメントありがとうございます。皆で力を合わせて、普段の10倍速で物事が進んでいっている印象です。しっかりついていけるように精進します。

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