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ブログについて

ハワイは温暖な気候と全米一のCultural mixが見られ、医師としての幅広さを養うにはいい環境と感じています。
旅行だけでは見えない、ハワイ在住の魅力もお伝えできればいいなと思います。

野木 真将

兵庫県出身、米国オハイオ州で幼少期を過ごす。京都府立医大卒、宇治徳洲会病院救急総合診療科の後期研修を修了。内科系救急を軸とする総合診療医として活躍したい。よきclinical educatorとなるため、医師としての幅を広くするため渡米。2014年よりハワイで内科チーフレジデントをしながらmedical education fellowshipを修了。2015年よりハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして勤務中。

野木 真将のブログ
2020/01/31

新型コロナウィルスに関する治療研究の最新情報 – エピデミックの速度に追いつけるか?

新型コロナウィルスに関する症状や広がりのニュースを懸念しながら見ています。
治療薬やワクチン研究に関する情報が少ないと感じたので、米国にいる自分が入手できる現時点で得た情報から要点をシェアしたいと思います。
前提知識として、今回の新型コロナウィルスは、過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)と同属のウィルスです。
非医療従事者向けの新型コロナウィルスに関する基本情報は、高山義浩氏のこちらの記事にわかりやすく解説されているので、お勧めします。
医療従事者向けには、Lancet誌(1)やNEJM誌に次々と最新記事が掲載されており、今回のエピデミックに対する医療界の異例の対応の速さに希望が持てます。

2020年1月にWuhan-nCoVのゲノム解析が公表されてからの話

 2020年1月に今回問題となっているWuhan-nCoVのゲノム解析が公表された時点で、ボストンやサンディエゴなどではすでに新型コロナウィルスに対するワクチンの製造行程に入っており、2020年夏までに安全性試験の実施を目指しています。
ただし、猛威を振るっている新型コロナウィルスに対して「いますぐに」投与開始できるワクチンはないでしょうか?
実は、テキサス州のヒューストンではSARS-CoVに対するワクチンが冷凍保管されており、SARS-CoVとの共通点から、このSARS-CoVワクチンの在庫に注目が集まっています。
2002年に猛威を振るったSARS-CoV(コロナウィルス)に対するワクチンは、2016年の段階でテキサスのグループ(Peter Jay Hotez氏)がphase1 (健常人に対する安全性試験)臨床試験まで実施できるほど製造できていましたが、推定で2億円ほどの追加予算が工面できず、一旦中止になっていたようです。
今になって、この第1相(安全性)臨床試験を終了させていなかったことが、悔やまれます。
米国フィラデルフィアのバイオテクノロジー会社であるInovio社は、これまでにZika (ジカウィルス), Ebola (エボラウィルス)、 MERS(中東呼吸器症候群:マーズコロナウィルス)などに対するワクチン開発研究の実績があり、今回の新型コロナウィルスのワクチン製造にも参戦しています。すでにヒューストンのラボとサンディエゴの工場で生産開始しているようです。
NIH(アメリカ国立衛生研究所)は Moderna社と提携して、同じく新型コロナウィルスに対するワクチン製造を開始し、2020年4月までの第1相試験を目指しています。
他にも米国Johnson & Johnson社や、オーストラリアのクイーンズランド大学の研究班でも同時並行でワクチン製造と安全性確認を目指していると聞きます。

新型コロナウィルスに対する内服薬の候補

米国Johnson & Johnson社は、上海の会社にHIV治療薬である cobicistat/darunavir (商品名:Prezcobix)を大量に寄付しており、新型コロナウィルスへの治療効果研究を支援しました。
同様に、現時点で入手できるAbbie社の抗HIV治療薬であるLopinavir/ritonavir(商品名:Kaletra、Aluvia)とインターフェロンα吸入との併用療法の新型コロナウィルスに対するランダム化比較試験が中国国内で開始されていると聞きます。同薬はすでに日本でも抗HIV治療薬カレトラとして承認されてますね。
ノースカロライナ大学の研究班は、Remdesivirという抗ウィルス薬の治療効果研究を手がけています。このremdesivirは、米国Gilead社がエボラウィルスに対して研究開発した新型の抗ウィルス薬で、残念ながらエボラウィルスに対する
効果が乏しかった(正確に言うと、エボラウィルスに対するモノクローナル抗体:REGN-EB3の方が効果が高かった)ですが、NipahウィルスやSARSやMERSなどのコロナウィルスに対する動物実験の実績から、有望であると最近のランセット誌の記事にも紹介されています。
2020年Nature common誌(2)は、MERS-CoVに対する治療効果をremdesivirLopinavir/ritonavir/Interferon betaの併用療法で比較した記事を掲載しました。
これによりますと、現時点ではremdesivir単剤が、肺炎への治療効果で優っているとの結果でした。
MERSに対する治療成績をどれほど、今回の新型コロナウィルスに応用できるかは不明瞭ですが、期待は持てます。
これから新薬を開発して、安全性試験を実行する時間の猶予はないかもしれないので、すでに人への安全性が確認されている承認薬(抗B型肝炎薬ribavirinなど)で効果のあるものが確認されて欲しいですね。

2019年のエボラウィルス再興に見る、ワクチン研究を継続する意義

2014年に西アフリカでエボラウィルスが拡大した際に、ワクチン製造と臨床試験は追いつきませんでした。多数の死者が出たのちに、一旦収束します。
それでもワクチン製造研究は継続されて、2019年にコンゴ共和国で再興感染症として広がりを見せた際には入手可能となっており、20万人以上がエボラワクチンを接種されていました。日本国内でも2019年12月から東大開発のiEvac-Zの第1相試験が始まりましたね。
そう遠くない過去に、同じコロナウィルス属であるSARSやMERSがあったわけで、この種類のウィルスはコウモリなどの現宿主から変異を起こしてヒトへの感染を起こしうることが知られています。
2003年のSARSは最終的に8098名の感染と774名の死者を出し、2012年のMERSは最終的に2468名の感染と851名の死者を出しました。
今回の新型コロナウィルスのエピデミックの報告症例数は2020年1月30日時点ですでに9776名(死者213名)であり、今後どのような経過をたどるかはまだ予想できないのですが、パンデミックは避けたいですね。
たとえ収束する方向に進んだとしてもワクチンや治療薬研究の手は緩めずに、将来の再興を見越して臨床応用できる段階まで続けていってほしいものです。

まとめ

1)新型コロナウィルスに対する新たな特異的ワクチンは2020年夏の第1相安全性試験を目指している
2)新型コロナウィルスに対するワクチンや治療薬研究は、同属のコロナウィルスであるSARSやMERSの経験に積み上げる形で実行できれば時間短縮できるかもしれない。
3)新型コロナウィルスに対する内服治療薬として、現時点で有力なのは抗エボラウィルス薬のremdesivir, 抗HIV薬のlopinavir/ritonavirや抗B型肝炎薬のribavirinなどです。
参考文献:
1)Huang, C., et al. (2020). Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. The Lancet https://dx.doi.org/10.1016/s0140-6736(20)30183-5
2)Sheahan TP, Sims AC, Leist SR, et al. Comparative therapeutic efficacy of remdesivir and combination lopinavir, ritonavir, and interferon beta against MERS-CoV. Nat Commun 2020; 11: 222.
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