Skip to main content
寺島慶太

ブログについて

小児がんの診療と研究における最新の話題を提供したいと思います。米国のNational Cancer Instituteが発行しているCancer Bulletinや学術雑誌などから、米国発の関連ニュースを提供したいと思います。日本ではなかなか情報が入らない、新薬の治験結果なども積極的に取り上げたいと思います。

寺島慶太

名古屋大学医学部を卒業し、6年間の国内研修後、ニューヨークで小児科レジデント研修を行う。その後ヒューストンで小児血液腫瘍および小児脳神経腫瘍フェローシップ研修を行う。現在、小児腫瘍専門医として、テキサス小児病院およびベイラー医科大学で、小児脳腫瘍の診療と研究に従事している。日本で小児脳腫瘍の包括的診療研究プログラムを立ちあげるのが目標。

★おすすめ

腫瘍学のメジャー学術雑誌Journal of Clinical Oncology最新号から、小児がんサバイバーについて調査結果が報告されています。Childhood Cancer Survivor Study (CCSS)からの、どちらも重要な報告です。

ひとつめ:遺伝子損傷リスクが高いと考えられる化学放射線療法を受けた小児がんサバイバーたちと、遺伝子損傷リスクが低いと考えられる治療を受けた小児がんサバイバー、及び一般集団の、次の世代の子どもにおける先天性異常症発生率を比較したところ、三つの集団の間に差は見られなかった。

原著はこちらです。 http://bit.ly/ywueya

この調査結果は、多くの小児がんサバイバーおよびその家族、また理論的には精子や卵子の遺伝子を傷つけ、次世代の先天性異常を起こす可能性のある治療を提供する我々小児がん専門医にとっても、安堵する内容でした。今後、小児がん患者やサバイバー、またはその家族に対して、アルキル化剤や性腺への放射線照射が及ぼす影響を説明する際、次世代への先天性異常リスクは低いということを、今までよりも強い確信を持って伝えられます。もちろん、より効果的かつ低毒性の治療を今後も目指すべきです。しかしこの調査では、現代の標準治療が次世代に及ぼす影響が限定的であるという、ひとつのエビデンスが示されました。

 

ふたつめ:小児がんサバイバーにおいて、肥満率が高いことは知られているが、肥満のリスク因子は非常に多い。この問題に適切な対応をするため、大規模なリスク評価を行った。肥満の独立したリスク因子は、5-9歳という診断時年齢、身体的機能低下、下垂体・視床下部への放射線照射、抗うつ薬(paroxetine:パキシル)の服用であった。構造方程式モデリング解析(SEM)によると、根っことなる問題は、不活発なライフスタイル、不安、痛みであった。不活発なライフスタイルは身体的機能性の低下、低い運動量や痛みに、不安は痛みや抗うつ薬服用に、痛みは低い運動量につながり、複雑ながら有機的に肥満を増徴する。

原著はこちらです。 http://bit.ly/zoDR3t

 

肥満の予防は健康な人でも難しいですが、より複雑な問題を抱えた小児がんサバイバーに対して適切なリスク評価および肥満予防プログラムを提供するために、有用な情報がこの調査で得られました。今後、小児がんサバイバーの長期フォローアップ診療において、痛みや不安といった、小児がんサバイバーに比較的頻度が高い症状が見られた場合、それらが不活発なライフスタイルにつながり、肥満のリスクになることを念頭に置き、きめ細かく生活スタイルの評価や、肥満指標の変化などに注意していく必要があるでしょう。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。


バックナンバー