腫瘍学のメジャー学術雑誌Journal of Clinical Oncology最新号から、小児がんサバイバーについて調査結果が報告されています。Childhood Cancer Survivor Study (CCSS)からの、どちらも重要な報告です。
ひとつめ:遺伝子損傷リスクが高いと考えられる化学放射線療法を受けた小児がんサバイバーたちと、遺伝子損傷リスクが低いと考えられる治療を受けた小児がんサバイバー、及び一般集団の、次の世代の子どもにおける先天性異常症発生率を比較したところ、三つの集団の間に差は見られなかった。
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この調査結果は、多くの小児がんサバイバーおよびその家族、また理論的には精子や卵子の遺伝子を傷つけ、次世代の先天性異常を起こす可能性のある治療を提供する我々小児がん専門医にとっても、安堵する内容でした。今後、小児がん患者やサバイバー、またはその家族に対して、アルキル化剤や性腺への放射線照射が及ぼす影響を説明する際、次世代への先天性異常リスクは低いということを、今までよりも強い確信を持って伝えられます。もちろん、より効果的かつ低毒性の治療を今後も目指すべきです。しかしこの調査では、現代の標準治療が次世代に及ぼす影響が限定的であるという、ひとつのエビデンスが示されました。
ふたつめ:小児がんサバイバーにおいて、肥満率が高いことは知られているが、肥満のリスク因子は非常に多い。この問題に適切な対応をするため、大規模なリスク評価を行った。肥満の独立したリスク因子は、5-9歳という診断時年齢、身体的機能低下、下垂体・視床下部への放射線照射、抗うつ薬(paroxetine:パキシル)の服用であった。構造方程式モデリング解析(SEM)によると、根っことなる問題は、不活発なライフスタイル、不安、痛みであった。不活発なライフスタイルは身体的機能性の低下、低い運動量や痛みに、不安は痛みや抗うつ薬服用に、痛みは低い運動量につながり、複雑ながら有機的に肥満を増徴する。
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肥満の予防は健康な人でも難しいですが、より複雑な問題を抱えた小児がんサバイバーに対して適切なリスク評価および肥満予防プログラムを提供するために、有用な情報がこの調査で得られました。今後、小児がんサバイバーの長期フォローアップ診療において、痛みや不安といった、小児がんサバイバーに比較的頻度が高い症状が見られた場合、それらが不活発なライフスタイルにつながり、肥満のリスクになることを念頭に置き、きめ細かく生活スタイルの評価や、肥満指標の変化などに注意していく必要があるでしょう。