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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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(この記事は2012年12月号(vol87)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルス http://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

病院で赤ちゃんが誘拐されたとか、別の赤ちゃんと取り違えてしまったとかいう事件、滅多に起こることではありませんが、一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか。米国でも、過去に少なからずそういった事件が起きており、最近も年に一件や二件の誘拐事例が報告されています。実際に起こった時の社会的影響は大きく、病院にとっては「一度たりとも起こってはならない」事例だと言えるでしょう。

メイヨークリニックでは、それを防ぐためにHugs & Kissesというシステムが導入されています。このシステムでは、赤ちゃんの足首にHugsと呼ばれるタグを、その母親の手首にKissesと呼ばれるタグを付けます。それらは固有のIDを持っており、一対一で対応しています。Hugsが付けられた赤ちゃんはコンピューターでその位置情報が管理され、例えば赤ちゃんが新生児室から出された場合、自動でアラームが鳴るように設定されています。この場合、赤ちゃんを新生児室から動かせるのは、それに対応するKissesを持った母親だけです。母親が赤ちゃんを抱っこするなど一定以内の距離にいる場合、アラーム設定が緩和され、例えば産婦人科病棟内なら自由に移動できるようになります。しかし、母親でも勝手に赤ちゃんを産婦人科病棟から出すことはできません。もしあらかじめ設定した境界を赤ちゃんが越えた場合、母親が近くにいてもアラームが鳴り、他の病棟や階段への扉が自動でロックされるなど、二重三重の防護壁が張られるようになっています。

このシステムが優れているのは、すべてが自動で管理されており、人の監視に多くを頼らない点です。どんな人でも間違えることはあり、人に依存するシステムではミスを完全には防げません。

医療業界では伝統的に、ミス防止を人に依存する傾向が顕著で、ミスが起こった際も「ミスをしでかした本人が悪い」とされることが一般的でした。しかし、それではミスの軽減につながらないことが様々な研究で分かってきています。

従って、ミスの起こらないシステムを作り上げることが、米国の医療業界では最重要課題の一つとなっています。ここで例に挙げた新生児の誘拐防止の他にも、投薬ミスや患者取り違えなどが代表的な問題として取り上げられています。これはここ10年ほどの傾向ですが、医療ほど複雑でミスが人命に直結しやすい業界で、患者の安全が最近まで最重要課題でなかったことが、むしろ驚くべきことかもしれません。

Hugs & Kissesなどのミス防止技術や理論の多くは、航空業界や防衛業界などの他産業で発達してきたものです。そのような業界で働いた人が医療業界の内部を見ると、とてもミスの発生しやすい環境に驚くことが多いようです。医療業界でも、他産業で発達した技術や理論を上手に生かし、ミスの起こらない仕組みを作り上げることが強く求められています。

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