最近肥満の患者さんに胃カメラをする前に軽い呼吸苦が出現した一例がありました。酸素レベルが少し落ち始め、麻酔科が気管内挿管の準備を始めました。おそらく喉頭けいれんです。喉頭鏡で覗き込むも、上手く見えません。酸素のレベルは今のところ保たれています。
指導医のDr. Kが言いました。「Shin、メスの準備しといて。」
一応気道は保たれていますが、気道が失われグライドスコープなどを使っても気管内挿管出来なかった場合、最悪は緊急で気管切開crycothyroidotomyです。
僕は普通の気管切開tracheostomyは今までに何度もやっていますが、実は緊急時に行われるcrycothyroidotomyは、外傷コースATLS(日本で言うJATEC)でマネキンを使ってやったくらいです。
メスを持ってスタンバイする間、僕は頸部の解剖とcrycothyroidectomyの手順を頭の中で復習します。
のど仏(thyroid cartilage)とその下にあるcricothyroid cartilageの間にcrycothyroid membraneという狭いスペースがあり、ここを切開します。
まずは左手の親指と中指でthyroid cartilageを押さえ、人差指でcrycothyroid membraneを触れます。そこをめがけて右手のメスで縦切開を入れ、membraneを探り、membraneを今度は横切開します。ここに挿管チューブなりを捻りこみます。
最悪の事態に備えメスを片手に麻酔科の人たちと患者さんの様子を見ていましたが、幸い喉頭けいれんは改善し、酸素も回復したので、僕の初crycothyroidotomyは出番がありませんでした。
Hope for the best and prepare for the worst.
という言葉にもあるように、worst case scenarioを常に考えることは大事で、日本の初期研修時代に岸田先生に何度も言われました。それで思い出しましたが、「普段から患者さんをみるときに、この人にもし気管切開をするならここだなというように、anatomic landmarkを確認する癖をつけなさい」ともよく言われました。
初めてのcrycothyroidotomyに向けて、イメージトレーニングだけはバッチリです。
宮田先生、はじめまして。
私もInterventional Cardiologyで手技が多い分野なので、このworst case scenarioは常に考えるくせがついています。私のボスがカテ室でのCriticalな患者さんの経験が非常に豊富なので、常にそういう考え方をするようトレーニングされました。かなりやばそうな病変を見て、これは緊急バイパス手術だな、と思いながらも、今患者がクラッシュしたら、次はどうするか、など心の準備がないとすぐには動けません。
こういう指導をしてくれるボスは貴重ですよね!
Dr. Yumi,
コメントありがとうございます。
いつもworst case scenarioを想定できていればいいのですが、僕はまだ「予想外」のことが起こることが多々あります。