忙しい移植外科もはや中盤にさしかかりました。
このサービスの特徴として、忙しいときとそれほどでもないときの差が激しいということがあります。
忙しくないときは、生体腎移植が数件あったり、ICUの患者さんが急変して検査やオペが必要になったりという、割とドタバタ劇の少ない週もあります。一方、一人の脳死患者さんが出ると、それを取り出しに行くために車やヘリで繰り出し、肝臓・膵臓・腎臓を摘出して、その一つずつを大切に凍り詰めにしたダンボールを抱え、病院に持って帰り、その臓器一つ一つを違った患者さんに移植していくということになるので、急に忙しくなります。
レシピエントとなる患者さんたちにとっても、同じように忙しくストレスフルな一日になります。家にいるときに突然移植コーディネーターから電話が入り、「これから腎臓が入るかもしれないから、すぐに病院に来てください!これから食べたり飲んだりはしないで。病院に来たらすぐに採血と胸部レントゲンをとります。」
こうして病院に急いできて、採血や検査をして、絶飲食のまま臓器が来るのを今か今かと待った挙句、直前になって、「腎生検の結果が思わしくないから今回は残念ながら見合わせましょう」という結果になることもまれではありません。そしてこれが何回か続いてしまう患者さんもいます。
一つの臓器をめぐり、患者さんも病院のスタッフもその臓器に振り回されてしまいます。
逆に移植外科の魅力としては、なんと言っても患者さんが短期間に劇的に回復することでしょう。肝移植の直後から、見る見るうちに患者さんの皮膚から黄疸がとれ人間らしい色に変わっていき、元気になって退院するのを見ることは、自分たちの最大の喜びです。その代わり合併症が起こったときには、まさににっちもさっちも行かない悲惨な状況にもなり得ます。
脳死患者が外の病院で出た場合、その病院に駆けつけ臓器の取り出し(organ procurement)を行うチームと、メリーランド大学病院に残り、臓器をprocurementのチームから受け取ってそれをレシピエントに移植するチームとに分かれます。
この週末は当番だったので、僕はprocurementチームとして、ヘリコプターで外病院に行って肝臓と腎臓を取り出してくるというミッションを担うことになりました。
procurement自体アドレナリンの出る手術なのですが、ヘリ移動と聞いてかなり心が躍ってきました。アテンディングのDr.ラマティナと、インターンのハリームと一緒に、ヘリに乗り込んでいざ出動!!!目的地はヘリで約30分ほどの田舎の病院!
ヘッドホンをし、シートベルトを付けて、ヘリのプロペラがうるさく回り、フワーッと病院のヘリポートから離陸したときに、大切なことを思い出しました。
・・・俺、こういうの苦手だった・・・
子供のころ、絶叫マシーンとか大好きだったのですが、ある時を境にウソのように高いところとか落ちるときの感覚とかがだめになってしまったのです。その感覚が、一瞬蘇ってしまったのでした。
幸いすぐにその感覚にもなれ、美しいメリーランドの初夏の大自然を見下ろしつつ、この田舎の病院へ向かったのでした。
つづく(かも)