小学生の頃、保健室でみんな一列に並んで歯科検診を受けたのを覚えていますか?アメリカでは、日本のような学校での集団定期健診や歯科検診はありません。自分で定期的に病院や歯科に行く必要があります。すると、一度も歯科検診を受けたことがない子も出てきます。その理由として、アメリカでは歯科の保険が一般健康保険と別であり、歯科の保険に入っていない人もいることが挙げられます。しかしもっとも大きな原因のひとつは、お父さんお母さんが歯科検診の大切さを知らないことです。歯の健康は非常に大切で、虫歯ができると、痛みで夜も眠れなかったり、ごはんが食べられなかったり、学校を休んだりと、子供の生活に大きな影響が出てきます。また、虫歯が進行すると、歯ぐきの奥までばいきんが入り込み、入院が必要になることもあります。そのため、定期健診や予防接種のために病院に来た子供の歯のチェック、お父さんお母さんに歯科検診の大切さや毎日の歯のケアについて教えることも小児科医の大切な役割です。そこで、今回は小児科でよく聞かれる歯の質問について話したいと思います。
乳児編
Q. 歯が生えていなくても、授乳の後に口の中はきれいにする必要がある?
A. はい。少なくとも1日2回、授乳の後に、水で濡らしたガーゼや柔らかい布で、歯ぐきを優しくぬぐってください。
Q. いつ頃、歯が生え始める?
A. 一般的に6〜9ヶ月で歯が生え始めますが、赤ちゃんによって個人差があります。特に未熟児で生まれた赤ちゃんは生え始めが遅い傾向があります。12ヶ月を過ぎて1本も歯が生えてこない場合は歯医者さんで診てもらってください。
Q. 歯の生え始めの痛みやうずきはどうやって取り除く?
A. 冷蔵庫で冷やしたスプーンやteething ringをかませてあげると痛みが和らぎます。ただし、冷やしすぎると凍傷の恐れがあるので、冷凍庫には入れないでください。teething gel(痛み止め用のジェル)は、全身に吸収されて、メトヘモグロビン血症という、血液中の赤血球が酸素を十分に全身に運べなくなり呼吸が苦しくなったり、意識障害を起こしたりする可能性があるため、使わないでください。
Q. 歯科検診はいつから始める?
A. 歯が生え始めたら、歯科検診を始めてください。一般的には1歳〜1歳半で歯科検診を始め、その後は年に2回の検診を受けます。子供の歯を専門とする、小児歯科医院で診てもらってください。
Q. 哺乳瓶はいつまで?
A. 歯が生えてきたら、sippy cupやコップを使い始め、12ヶ月までには哺乳瓶を卒業してください。哺乳瓶をいつまでも使うと、虫歯の原因になります。また、ジュースや砂糖入りのお茶を哺乳瓶であげないでください。
幼児編
Q. 正しい歯のみがき方は?
A. 乳歯が生えてきたら、子供用の毛先が柔らかいハブラシでハミガキを始めます。子供を膝の上に座らせたり、膝まくらをして、歯の表面、裏面、かみ合わせ部分を順番に、ハブラシが歯と歯ぐきの境目に向かって45度の角度になるようにあて、円を描くように、1〜2本ずつみがいてください。最後に舌もきれいにしてください。
小さい時はハミガキを嫌がる子もいますが、ハミガキの歌を歌ったり、最初に子供に自分でハミガキをさせてあげてからお父さんお母さんが磨いたりと、親子のスキンシップを取りながらハミガキを習慣付けるといいです。
Q. ハミガキ粉はいつから使い始める?
A. 基本的には2歳からです。ハミガキ粉にはフッ素が含まれており、虫歯予防に役立ちます。しかし、2歳未満の子供はハミガキ粉を飲みこんでしまうことがあります。歯の発達の時期(8歳頃まで)に、たくさんのフッ素が全身に吸収されると、歯の表面に白い斑点やシミができるフッ素症が起こることがあります。そのため、この時期までは少量(グリーンピース大)のハミガキ粉を使ったり、フッ素の含有量が少ない子供用のハミガキ粉を使ってください。
2歳未満の子供では水道水でハミガキをしてください。アメリカの多くの地域では水道水に少量のフッ素が添加されています。また、フッ素が入っていない赤ちゃん用のハミガキ粉を使用しても良いです。
虫歯のリスクが高い場合には、2歳未満でもフッ素を使用することがあります。フッ素の必要性については、歯医者さんとよく相談してください。
☆ 水道水へのフッ素添加について
WHO(世界保健機構)は安全性/危険性と虫歯予防へのメリットを考慮し、飲料水のフッ素濃度を決定するべきであると述べています。
北米では、虫歯予防のために、多くの地域で水道水にフッ素が添加されています。the US Department of Health and Human Services(アメリカ保険社会福祉省)による推奨濃度は0.7mg/dlです。(2011年)
CDCのMy Water’s Fluorideのウェブサイト
http://apps.nccd.cdc.gov/MWF/Index.asp
にて、北米各地域での水道水のフッ素濃度が調べられます。
日本では、水道水へのフッ素添加について多くの議論がされており、全国規模でのフッ素添加は行っていません。
学童編
Q. 歯の矯正はいつから開始する?
A. 乳歯が抜けて、ほとんどの歯が永久歯に変わった時期。一般的には8〜14歳で開始します。矯正の目的としては、歯並びが悪いことによる虫歯のリスクを減らすことや噛み合わせの問題が主ですが、コスメティックの目的で矯正を希望する場合もあります。7歳頃までに歯医者さんと相談してください。
毎日の正しい歯のケアと定期的な歯科検診で、子供の歯の健康を保ち、おいしいごはんと日常生活を楽しめるようにしましょう。
貴重な話、有難うございます。米国での歯科保健教育はどうなっているのでしょうか。日本では、いわゆる口腔保健法が施行されています。厚労省にも、口腔保健推進室が設置されました。こうした中においても、国民の意識、教育が大切なだと思うのですが、現状はどうなのでしょうか。
歯科ジャーナリスト 奥村 勝
コメント、どうもありがとうございます。
米国では、学校での集団歯科健診は無く、個別に医療機関を受診する形がとられています。具体的には、学校に進学すると、歯科健診の用紙が各生徒に配布されます。保護者は各自、歯科医院を受診して、用紙を記入してもらい、学校に提出する必要があります。しかし、用紙によっては、歯科健診欄もかかりつけ小児科医が記入できる場合もあり、必ずしも、全員が歯科医院を定期的に受診しているとは限りません。
学校進学前のお子さんに関しては、必ず歯科健診を受けなければいけないという決まりがないため、保護者やかかりつけ小児科医の意識によって、歯科衛生の水準に格差が出てきます。
実際、一般歯科健診のみならず歯科矯正やホワイトニングに関しても意識の高い人が多くいる一方で、Medicaid(主に低所得者を対象として公的医療保険)を保持する子供の半分以上が歯科医院を受診したことがありません。
Hakim R, Davis D, et al. State of Dental Care Among Medicaid-Enrolled Children in the United States. Pediatrics. 2012; 130: 4-15.
米国の平均水準という点では、歯科保健教育は、まだまだ大きな課題だと思います。