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野木真将

ブログについて

ハワイは温暖な気候と全米一のCultural mixが見られ、医師としての幅広さを養うにはいい環境と感じています。 旅行だけでは見えない、ハワイ在住の魅力もお伝えできればいいなと思います。

野木真将

兵庫県出身、米国オハイオ州で幼少期を過ごす。京都府立医大卒、宇治徳洲会病院救急総合診療科の後期研修を修了。内科系救急を軸とする総合診療医として活躍したい。よきclinical educatorとなるため、医師としての幅を広くするため渡米。2014年よりハワイで内科チーフレジデントをしながらmedical education fellowshipを修了。2015年よりハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして勤務中。

東京五輪開催予定の7月23日まであと11週間となった今、「一体どういうつもりなのか?」とヤキモキする毎日です。

特に医療従事者としては、「もっと他に優先すべきこと(ワクチン接種事業とか、医療逼迫地域への医療支援とか、水際感染対策とか、変異株のゲノム解析とか)があるのに。。。」と思ってしまいます。

海外ではどのような目線で見ているのでしょうか?このGW連休中にワシントンポスト紙ウォールストリート紙に辛口の記事が掲載されました。終始一貫して「なぜ中止しないのか」という論調ではありますが、なかなかここまで数値を出して検証する記事は珍しかったので、とても参考になりました。

膨れ上がる予算と損失額へのチキンレース

日本国民の72%が、パンデミックの中で1万5千人の外国人選手や関係者をもてなすことに消極的あるいは嫌悪感を抱いているにもかかわらず「東京五輪の中止」という決定に踏み切れないのは、なぜでしょうか?

今のところ、夏季大会の開催を検討する最大の理由はお金でしょう。東京五輪の当初の予算は70億ドルでしたが、今では開催のためにその4倍に当たる約250億ドルをすでに投資しています。これは、2020年開催からの1年延期に伴う追加の2,940億円も含まれているのでしょう。

しかしそれでも、「IOCは収入を得るために凝った施設やイベントを義務づけ、そのほとんどを自分たちのものにする一方で、費用はすべて開催国に押し付け、開催国はすべての資金を保証しなければならない。IOCは規模やデザインの基準を設定し、ライセンス料や放送料を抑えながら、主催者の良識に反してどんどん支出を増やすことを要求する。」とワシントンポスト紙の社説では主張しています。

そして東京五輪が中止となった場合には、どのような損失が発生するのでしょうか?

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、東京オリンピックが中止になった場合の影響額として、完全な形での開催との比較で、国内総生産(GDP)ベースの損失が1.7兆円、経済波及効果ベースで3.2兆円と試算しています。関西大学の宮本名誉教授の資産では、約4.5兆円の損失と発表しています。SMBC日興証券は、経済損失額は約7.8兆円に上り、GDP(国内総生産)を1.4%程度引き下げることになるとしています。私も専門家ではないので、どうしたらこのような資産になるのかはよく説明できませんが、大会が中止になった時に発生する新たな費用、開催による発生すると期待されていた波及経済効果(レガシー効果)などを合わせたもののようです。

こうした莫大な損失を恐れて、中止の判断がなかなか下せないのは理解ができます。しかし、実行に踏み切ったときのコストやリスクはどうでしょうか? 私はただの医療者なので、経済の難しいことは分かりませんが、現実的に日本の医療資源がピンチになっていることは分かります。

五輪を実行した先の超過資金の悪夢

IOCは、不測の事態に備えて、全体の約9.1%の追加予算が適切と見積もっていますが、歴代の夏季大会の本当の平均コスト超過率は213%でした。深刻な経済不況の中、2016年に開催されたリオ大会では、当初の予算を352%もオーバーしてしまいました。

開催国との「ホスト契約」では、7ページに渡って、開催国がオリンピック参加資格を持つ人に無料で提供しなければならない「医療サービス」が記載されています。これには、オリンピック参加者専用の地元病院の部屋、約1万人の医療従事者の召集、15,000人もの来場者や選手に定期的に繰り返すコロナウィルスのテストなどが含まれます。これら追加セキュリティや膨大なロジスティックス、運営コストを提供しようとすると、東京五輪ではさらにどれだけの費用がかかるでしょうか?

選手約1万人、ボランティア約8万人のコロナ対策とワクチン接種はどこまで詳細に検討されているのか、不透明な部分があり、ボランティアを辞退する人がいても不思議ではありません。仮に競技会場内で陽性者が発覚した場合、どこまでが濃厚接触者扱いとなり、誰が判断して、どこで隔離をするのか?相当な数の空き個室が用意されていなければならない。

オックスフォード大学の論文「Regression to the Tail: Why the Olympics Blow Up」の中で、著者らは、「オリンピックは、地球上の他のあらゆる国家的建築プロジェクト(メガダムやトンネル掘削)を遥かに超えるコストの爆発を生んでいる。増え続ける複雑さと費用、そして計画期間の長さ(7年から11年)により、インフレからテロの脅威まで、あらゆるものに対応することを求めた不確実性の高いプロジェクトとなっています。IOC委員会が9.1%の緊急事態で十分だと主張するのは、実際のコストリスクについて妄信しているのか、それとも不都合な事実を意図的に見過ごしているのか。どちらにしても、開催都市や開催国は誤解を受けることになる」と書いています。

仮に日本が東京五輪の中止を決定したら、どうなる?

仮に日本が契約を破棄したとします。IOCはどうするでしょうか?訴えるとしたら、どこの裁判所で?誰が管轄するのか?はっきりとした答えはありません。このような訴訟をしようものなら、パンデミックの中、ストレスと苦痛に満ちた国で大会開催を強要した非人道的な組織としてIOCの評判は地に落ちるでしょう。

すでに評判はガタ落ちかもしれません。東京での苦境は、オリンピックの深く、長く続く闇の兆候であり、関係者全員にとって苦痛と疲労を強いるため、このような条件を受け入れようとする国は少なくなっています。この20年の間に、他の開催候補地は減ってきており、バルセロナ、ボストン、ブダペスト、ダボス、ハンブルグ、クラクフ、ミュンヘン、オスロ、ローマ、ストックホルム、トロントなどが、IOCにノーと言ってきています。

オリンピック憲章には、「オリンピック競技大会の開催取り消し」の項があり、開催取り消しによって生じる損害に対するIOCの賠償請求権は保証されるとありますが、それは「開催都市や組織委員会によるオリンピック憲章違反、IOCの規則や指示の不履行や義務違反があった場合」とされており、パンデミックによる不測の自然災害では適応されるのでしょうか?契約企業が違約金を請求して提訴したとしても、自然災害を理由に勝てるでしょうか?

過去に中止となった1916年ベルリン大会、1940年東京大会、1944年ロンドン大会はいずれも世界大戦による中止でしたが、違約金などは発生していません。

さらにIOCは通常、夏季五輪に約8億ドルの保険をかけるほか、東京五輪組織委は6.5億ドルの保険をかけていると推定されています。さらに、報道各社も巨額の保険をかけており、イベント中止に関するものでは英保険市場ロイズ・オブ・ロンドン(ロイズ保険組合)やミュンヘン再保険(5億ドル)やスイス再保険(2.5億ドル)などが大きく関与しているようです。感染症の拡大を理由とした中止はこれらの保険金支払いの対象になる公算が大きいそうです。

日本の指導者、オリンピック委員会への提案

日本の指導者たちは、自分たちが思っている以上に言いなりになる必要はなく、IOCから最大限の譲歩を引き出して、開催地を保護するための限定的な、あるいは遅れたバージョンの大会を開催することができる立場にあるようです。IOCには、参加国から一時的に与えられた権限以外には何の権限もなく、日本は何の義務も負っていません。

日本国民に課せられているコストは、金銭的なものだけではありません。東京、さらに周辺の医療資源の事情を見ていると、海外からの変異株などの急激な流入に対応するだけの余力はないように見えます。医療資源の枯渇による日本国民と海外来訪選手の共倒れは絶対に避けたいところです。

もう時間は迫ってきているかもしれませんが、仮に東京五輪が中止になった場合に損失を受ける業界ではプランbを用意し、ここは違約金とか言わずに気持ちよく国内のパンデミック対策に協力をする方が、相当な企業イメージアップに繋がるのではないでしょうか? 競技会場として綺麗に整備された施設を大規模ワクチン接種会場臨時クリニックなどに変更して都民を守ることができたら、歴史に残る偉業になるのではないでしょうか?

日本政府には是非とも英断を下して欲しいところです。

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