日本の対がん政策は、「がん対策基本法」という2006年に成立した法律に基づいて策定された、「がん対策推進基本計画」がその根幹です。がん医療の制度設計も、がん予防政策も、がん研究の方向性も、がん診療の専門化育成も、国民への啓蒙も、この基本計画に則って進められます。2007年に策定された第1次計画では、成人の5大がん診療の均てん化に最大の焦点が当てられ、がん診療拠点病院や地域がん登録などの制度が整い、がんの年齢調整死亡率の低下など、一定の成果が見られました。メジャーながんの標準的な診療体制が、日本の多くの地域で整備されるようになった原動力になったといえます。
しかし残念ながら、第1次計画では小児がんに対する言及は無く、成人のメジャーがんを主な対象とした政策からは、小児がん患者や家族と小児がん診療に携わる人々は、ほとんど恩恵を受けられませんでした。その例を挙げると、大学病院と一部のがんセンターを除けば、がん診療拠点病院のほとんどは小児がんを診療していませんし、逆に小児がん患者の大半を実際に診療している小児医療専門施設(こども病院など)は、制度的にがん診療拠点病院の要件を満たすのが難しくなっています。また、地域がん登録は、既存の小児がん登録とリンクしていません。もちろん、がん基本計画に取り上げられなかったことだけがその原因ではないのですが、日本の小児がん診療・研究・教育が過去5年間伸びなやんだ原因のひとつになったと思います。
今年は、がん対策推進基本計画見直しの年に当たり、新しい5カ年計画が策定されます。小児がん患者や家族たちが、その準備段階から精力的に働きかけた結果、切実な思いが政府に伝わり、新たな重点課題として小児がん対策が取り上げられることが決まりました。それを踏まえて、基本法に決められた、「厚生労働大臣が基本計画を作成するにあたり意見を聞く」審議会である、がん対策推進協議会のなかに、小児がん専門委員会が昨年1月に設置されました。東北関東大震災の影響で委員会開催ができない時期もありましたが、最終的な報告が協議会の本体に上がり、その議論から最重要項目が基本計画の骨子にも組み込まれ、厚生労働省に提出されました。基本計画策定に向けた議論をもとに、来年度予算も同時進行で編成される中、昨日基本計画の素案が厚生労働省から発表され、協議会でも集中的な議論が行われたようです。
このブログでも、何回かに分けてこの基本計画素案の小児がんに関連する部分について紹介し、掘り下げて解説したいと思います。
(続く)