小児がんのサバイバーも、成長し、将来的に親元を離れて独立して生活をしなければなりません。しかし、小児がん患者特有の健康問題はずっと継続します。彼ら彼女らが、適切なフォローアップをどこにいても受けられるシステムは、一刻もはやく確立されなければならないと思います。医療者向けのガイドラインは重要な土台になりますが、実際のサバイバーケアの現場で、それをいかに医療者が活用していくか。ここが実は一番難しいところなのではないかと考えています。このPassport for CareのようなITシステムを日本でも導入できたら、外来で短時間で確実に、各サバイバーにテイラーメードされたケアが提供でき、地域に戻るサバイバーについても、地元のプライマリー医がこのシステムを通じて、同様のレベルのケアが提供できることになります。小児がんサバイバーは、地域の医療機関でも、安心してフォローアップケアが受けられるようになり、のびのびと社会生活が送れるのではないでしょうか。
私が日本で、小児脳腫瘍の包括的診療プログラム作りと並行して、じっくり取り組みたいと考えているのは、小児がんサバイバーのフォローアッププログラムです。とくに脳腫瘍サバイバーは、認知神経機能と内分泌の晩期障害の合併が多く、低いQOLと困難な社会生活が待ち受けています。現在診療を行っている米国施設では、独立した小児がんサバイバー長期フォローアップ外来に、ある意味丸投げできてしまうのですが、システムが異なりリソースが限られている日本の臨床現場ではそういうわけにはいきません。治療進行中の患者のケアの合間を縫って行うあわただしい外来で、大量の情報やガイドラインに基づいて、良質のフォローアップケアを継続的に提供するのは至難の業です。
日本の医療環境で、最善のケア小児がんサバイバーに提供するために、アメリカで浸透しつつある、ITシステムを活用した小児がんサバイバーの長期フォローアップをお手本に、日本の現場に合わせた良いシステムを作る必要があります。サバイバーやその家族、この分野に携わっている医療者、IT技術をこんな分野にも生かしてみたいと考えるエンジニアなど、多くの方々と一緒に取り組んで行きたいと考えています。
(終わり)