治療が始まると、化学療法を安全かつ確実に行うことと、他の診療が順調にスケジュールどおり行われているかをモニターすることが、小児がん専門医の日常的な仕事になります。さらに、小児がん治療中に発生するさまざまな、社会的・心理学的な問題へも適切に対処し、患児の治療中のQOLを高く維持することにも努めます。小児の化学療法に独特の問題としては、薬剤、輸液、輸血などを投与する静脈血管路を確保するために、ほとんどの患者に中心静脈カテーテルを留置すること、経口薬の服薬指導がときに大変なこと、児の成長に応じて薬剤投与量を変化させなくてはならないこと、乳児や年少児の場合に薬剤の副作用をモニターするのに自覚症状申告が当てにできないこと、などがあげられます。他科で行われている治療が適切かどうか、各科との連絡を密にしてモニターしなくてはなりません。小児がんの症例が多い小児専門医療機関であれば比較的問題は少ないのですが、小児がんの経験が少ない総合医療機関の場合、医師だけでなく看護師や技師などが小児のケアに慣れておらず、画像診断や各種検査、手術や放射線照射などの治療で、思わぬトラブルが起こりえます。それをできるだけ防止し、問題があれば速やかに解決するのも、小児がん専門医のコーディネーターとしての役目になります。小児がん患者は、各種ストレスや感染に弱く、もっとも脆弱で特殊な存在ですが、非常に強力で集中的な医療を必要としています。治療計画全体に対して責任を負う小児がん専門医には、単なる化学療法スペシャリストというアイデンティティではなく、小児がんに関連するあらゆる事象に精通したジェネラリストであるというアイデンティティを持たなくてはなりません。もちろん、自分の限界を良く知り、いろいろな職種や専門家に素直に助けを求められる、柔軟性とコミュニケーション能力も必要とされます。
(続く)
ブログについて
小児がんの診療と研究における最新の話題を提供したいと思います。米国のNational Cancer Instituteが発行しているCancer Bulletinや学術雑誌などから、米国発の関連ニュースを提供したいと思います。日本ではなかなか情報が入らない、新薬の治験結果なども積極的に取り上げたいと思います。
寺島慶太
名古屋大学医学部を卒業し、6年間の国内研修後、ニューヨークで小児科レジデント研修を行う。その後ヒューストンで小児血液腫瘍および小児脳神経腫瘍フェローシップ研修を行う。現在、小児腫瘍専門医として、テキサス小児病院およびベイラー医科大学で、小児脳腫瘍の診療と研究に従事している。日本で小児脳腫瘍の包括的診療研究プログラムを立ちあげるのが目標。
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ジェネラリストであるのはそのとおりですね。柔軟性とコミュニケーションが必要とされるのも良くわかります。包括的という概念が色々に職種は専門家を巻き込んでというだけでなく、将来この患者さんがどのように生活していくかという、時間的経過でも考慮される概念も含まれているのでしょうか。
野崎病院 藤林 保
ご指摘のとおりです。小児がん専門医の大切な役割のひとつが、長期生存者のフォローアップです。これについては、あらためて文章をアップする予定です。