小児がんの確定診断がついたら、それを患児と家族に告知して、治療方針のついての話し合いをしなくてはなりません。通常、未成年の診療に対する最終責任・決定権をもつ親権者である両親に病名を告知するわけですが、患児に病名を告知するか、どのレベルまで病気の説明をするかという問いに明確な答えは無く、医師・チーム・家族・患児の年齢や成熟度や希望など、多くの要因を総合して判断することになります。一般的に、本人へのがんの告知は欧米文化で積極的で日本では消極的でしたが、最近は患児の希望や家族と相談しながら、病気をもつ本人にもしっかりと病名や病状を伝えて、主体的に治療に取り組んでもらう動きも出てきています。筆者は原則的には患児に病名を告知し、病気の説明も患児の年齢や発達レベルに応じて説明するというスタイルですが、やはりケースバイケースです。いまやインターネットなどの情報収集手段が発達し、子どもでも自分の病気の情報を自宅や病室からでも簡単に調べることができる時代です。病名を告知するということは、すべての情報を開示することになります。病名だけが一人歩きしないように、個々の患児の病状に応じたに説明をする必要があります。では極端に予後が不良な診断をどう伝えるかということになると、これはとても難しいことになります。生存率などの具体的な数字は統計的事実ですが、その数値を患児や家族に伝えるメリットはなんなのだろうと、自問することがあります。生存率90%ときけば希望がありますが、一方で10%の確率で死亡するという不安があとから押し寄せてきます。生存率10%と効くと、そのときは絶望的になりますが、ほとんどの患児・家族は90%の死亡率よりも10%の生存率に希望を見出し、治療を受けます。臨床試験の評価や、医療経済や患者集団としてのリスク・ベネフィットなどを考えるとき、予後見通しはとても重要ですが、個々の患児・家族にとって大切なのは、小児がんにおいてはごく一部の例外を除けば、生存率に関係なく治癒を目指したベストの治療をおこなうという方針に変わりはないということです。病気や治療の説明をする場に、主治医以外の医療チームが可能な限り参加することや、小児がんの原因は不明で、患児が小児がんになったのは、誰のせいでも、これまでの生活のせいでもないことを明言することの重要性は、言うまでもありません。
(続く)
ブログについて
小児がんの診療と研究における最新の話題を提供したいと思います。米国のNational Cancer Instituteが発行しているCancer Bulletinや学術雑誌などから、米国発の関連ニュースを提供したいと思います。日本ではなかなか情報が入らない、新薬の治験結果なども積極的に取り上げたいと思います。
寺島慶太
名古屋大学医学部を卒業し、6年間の国内研修後、ニューヨークで小児科レジデント研修を行う。その後ヒューストンで小児血液腫瘍および小児脳神経腫瘍フェローシップ研修を行う。現在、小児腫瘍専門医として、テキサス小児病院およびベイラー医科大学で、小児脳腫瘍の診療と研究に従事している。日本で小児脳腫瘍の包括的診療研究プログラムを立ちあげるのが目標。
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