11月の1か月間はNeuro-oncology(脳神経腫瘍科)の外来で研修を行いました。米国において悪性腫瘍の薬物療法はInternal Medicine(内科)のレジデンシーを修了したうえでMedical Oncologyのフェローシップを修了した医師が担当することが基本なのですが、脳腫瘍の薬物治療においてはNeurology(神経内科)のレジデンシーを修了し、Neuro-oncologyのフェローシップを修了した医師が診療にあたることも多く、特殊な領域となっています。実際、私の指導医はNeurologyのバックグラウンドを持った医師だったのですが、彼女のもとで研修を行っていく中で、Medical OncologistではなくNeurologistが脳腫瘍の治療を行う意義を感じることができました。
Neuro-oncology外来
今月の研修では指導医が外来でフォローアップしている患者さんを診察し、診察所見、画像、検査結果をもとに治療方針を指導医と話し合うという流れで研修を行いました。初診の患者さんがいる場合は他院からのデータなどを集めたうえで、自分で治療計画を立案し、診察を行ったうえで指導医にフィードバックを受けることになります。1日に平均すると10名ほどの患者さんがスケジュールされていました。患者さんの人数は他の外来に比べると比較的少なく、その分一人の患者さんに対してより長い時間を使って診察することになります。
担当している疾患はほとんどがGliomaですが、その中ではGlioblastomaが最も多く、Astrocytoma やOligodendrogliomaの症例も診療する機会がありました。そのほか、Medulloblastoma などの成人では比較的まれな脳腫瘍も経験しました。Neuro-oncologyでは実は脳腫瘍だけでなく、その他の腫瘍の腫瘍随伴症候群によるNeuropathyや、脳への放射線照射後のRadiation necrosisを診療することもあります。
脳はその他の臓器と比較すると、複雑で繊細な機能を持ち、MRIなどの画像で見えないほど小さな病変によって機能障害がおこることがあります。逆に言えば、問診や神経診察を通して検査よりも早い段階で疾患の進行を検知することもできるということです。そのため、特に脳神経腫瘍の診察では問診、神経診察が重要であり、そのために外来での診察時間が長くとられているのは合理的に感じました。また、他のがんと比較すると、脳腫瘍が全身に転移ながら進行することは非常にまれで、脳を圧迫、浸潤しながら局所的に進行していくことがほとんどです。これらの特徴から、Neuro-oncologyの診療においては詳細で正確な問診、神経診察ができることと、全身管理というよりは、脳という特別な機能を持った臓器の管理ができることが必要とされます。Hematology/Medical Oncologyのトレーニングでは悪性腫瘍を持った患者さんの全身管理を重点的に学ぶことになるため、より脳の機能にフォーカスした診療を学んだNeurologistがNeuro-oncologyの診療を担当することは理にかなっていると感じました。
臨床試験
脳腫瘍は比較的まれで、なおかつ治療の難しい腫瘍のため、治療ガイドラインで推奨されている治療方法はあるものの、より良い治療を提供するために臨床試験に参加することが強く勧められています。当院でもいくつかの臨床試験(免疫チェックポイントを用いた治療や腫瘍治療電場を発生する装置に関する研究)が行われており、初診の患者さんに対して臨床試験の説明をすることが多くあります。臨床試験担当の看護師、コーディネーターが常駐しているため、細かいスケジュールなどの説明は彼らが行いますが、試験の目的、想定される利益や危険性を伝えるのは医師の仕事です。突然脳腫瘍と診断されて戸惑っている患者さんに対して、研究を説明し理解していただくのは容易ではないですが、重要な仕事でありやりがいを感時ることができました。
12月は腫瘍内科コンサルトを担当します。当科の役割分担では、血液内科病棟担当のフェローが血液疾患に関するコンサルトを担当し、腫瘍内科コンサルトのフェローが固形腫瘍と凝固異常に関するコンサルトを担当します。固形腫瘍全般をカバーするというのはMedical Oncologyの本質だと思われ、とても有意義な研修になるのではないかと期待しております。