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Dr.Yumi

ブログについて

研修を終えてスタッフとして働き出してからは、アメリカ医療の現実をさらに実感するようになりました。よいところも悪いところもあるアメリカの医療の日常に、循環器のホットなトピックを交えて発信していきたいと思います。

Dr.Yumi

名古屋大学医学部卒業後、1年間のスーパーローテ研修を経て、アメリカにて臨床研修開始。内科レジデンシー、循環器フェローシップ、循環器インターベンションフェローシップを終え、現在ニューヨークのMount Sinai Beth Israelにてスタッフとして働き6年目。専門は循環器、特に心臓カテーテル治療。2人の娘の子育てと仕事に奮闘中。

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日本ではまだ統一見解がないようですが、アメリカでは最近は年齢に関わらず積極的に染色体異常のスクリーニング検査が推奨されます(2007年アメリカ産婦人科学会ガイドライン)。胎児の染色体異常で最も多いのはダウン症(トリソミー21)で発生率は1/800、この値は年齢と共に増加して35歳を超えると1/400となります。私が学生の時は”35歳以上の高齢出産では羊水穿刺による染色体検査を考慮する”と習ったものですが、最近では羊水検査の前にいろいろなスクリーニング検査が可能になってきています。

スクリーニングは血液検査とエコーからなります。1980年後半から染色体異常(トリソミー21、18、13)のある胎児を妊娠している母親の血液検査での血清マーカー(AFP、hCG、estriol、inhibinA)の異常が研究され、1990年半ばからはエコーによる胎児の頚部浮腫(nuchal translucency:NT)の値と染色体異常の関係が注目され、ダウン症の赤ちゃんの80%にNT肥厚が見られる事が示されました。現在ではその後の大規模データをふまえて、これらの検査を組み合わせてのスクリーニング検査が一般的です。

代表的な研究の1つは2005年にNew England Journal of Medicineに発表されたFASTER trialです。この試験では3万人以上の妊婦さんを対象に、それまで一般的だった妊娠中期の4種類の血清マーカーの検査に、妊娠初期(11週から13週)のNTと2つの血清マーカーを加える事によって、スクリーニングの正確さを改善できる事が示されまし
た。この組み合わせでのダウン症の予見率は偽陽性率(誤って陽性と出る確率)5%で94-96%となっています。

スクリーニングは感染症や流産を引き起こすリスクがある羊水穿刺を行う人を減らす事が可能と期待されていますが、逆に偽陽性でしない予定だった検査をする人も出てくる事を理解する事が必要です。羊水検査に比べて検査できる異常が限られている事も含めて、スクリーニング前には医師と妊婦さんがその意味をしっかり話し合う必要があります。出生前診断に関しては倫理的な側面もあり、アメリカでももちろん検査しない事を選ぶ事ができます。

NTに関してはその値は染色体異常だけでなく、他の先天性異常や胎児の予後にも関連しているようで興味深いところです。NTの測定の仕方が統一されていないと正確でなくなるため、アメリカではNTの測定は認定されている施設でしか行われていません。ガイドラインでもNTを測定できる施設がない場合には、血清マーカーの組み合わせを用いる事が推奨されています。

私は、1人目の妊娠でスクリーニングの後、ダウン症の確率1/96と言われて羊水検査をする事に、2人目は1/990と言われて羊水検査はしない事にしました。実際、それなりの確率を言われるとさらに検査をしてしまうものだと思いますが、それではそこからどうするのか(中絶するのかしないのか)、なかなか悩ましい問題で、授かったものは産みたいので知りたくない、というのも立派な選択だと思います。アメリカでは宗教上中絶はできない人も多いのですが、とりあえずスクリーニングはする人が多い印象です。

専門でない私がここまで調べたのはお察しの通り、1/96と言われた時です(笑)。専門家のみなさまのコメント大歓迎です。

3件のコメント

  1. 小児科浅井です。恥ずかしながら、そこまで詳しく調べたことはありませんでした。僕らのところには産まれた子供しか来ないのですが、その前の段階で数多くのプロセスでセレクションされているんですね。 一言にダウン症の子供といっても、いろんな子供がいて臨床的に病院のお世話にならないで住む子供から、生まれてからずーっと病院を出たり入ったりするような子供まであります。生活の機能のレベルもそれぞれで全然違います。スクリーニングではそいうったことは全く考慮にはいっていないので、問題視されるのでしょうね。 そこまで調べることが出来る日も遠くないんでしょうが、それはそれでもっと問題が複雑になるでしょうね。小児科としては、こういったスクリーニングをする前に、いったいダウン症の子供がどういう生活をしているかを見て考えて欲しいと思いますが、それは理想論かもしれません。
    Dr.Yumiは、スクリーニングを受ける前に、陽性だった場合の対応を考えてから羊水穿刺しましたか?

    • 浅井先生、
      貴重なコメントありがとうございました。そうなんですよね、ダウン症と言ってもそのレベルはさまざまで、私が1人目の値が高くて羊水穿刺をする時に、夫が「ダウン症の程度はわからないのか?」というなかなか的確な質問をしてきました。日本では、羊水検査も昔に比べてこの目的でされるようになってきて、中絶率が上がっているというニュースがありましたね。私も羊水検査の時は、検査してから結果が出るまで、いろいろな可能性を考慮して悩みました。個人的な話なので、どう対応するつもりだったかはここでは述べませんが、検査そのものより待っている期間がストレスフルでしたよー。

  2. 現在、妊娠6ヶ月です。妊娠18週目ぐらいの時にスクリーニングをしました。検査の結果、84分の1でダウン症の可能性があることが分かりました。
    一般的に、39歳の女性がダウン症のこどもを妊娠する確立の標準値は、82分の1です。医者から、私の年齢は39歳なので、検査の結果はこの標準値に見合うものと教えられました。

    そこで、単なる確立ではなく、確実な検査結果を知るには、6ヶ月ほど前ならば羊水穿刺という選択しかなかったのですが、現在はM21という血液検査を受けることが可能です。

    M21は母親の血液を採血し、その血液の中に流れる胎児のDNAを取り出し、ダウン症に関わる染色体を調べるというものです。結果は確立ではなく、異常か正常かのどちらかでだされます。
    採血から結果が出されるまでの期間は2週間ほどですが、私はこの検査を受けてからこの2週間がとても長く感じました。結果は「正常」ということです。

    「異常」の検査結果の場合、中絶するという短絡的な考えではなく、どのぐらいの程度のダウン症か、後々、手術が必要なくらいなのか、なども考慮に入れる必要があると思います。この検査の重要な利点は、妊娠を継続する場合、出生前にダウン症の専門医を見つけ、専門の育児教育に関わる機関にも連絡を取るなど、いろいろ準備することが可能になることです。出産前に精神的な準備、家族内の話し合いなどにも時間をかけて取り組めることでしょう。

    日本では、このような出生前検査は安易な中絶を招くとの理由で実施されないでいますが、アメリカでは主流の、婦人科の年に一度の健康診断、避妊用ピル、モーニングアフターピルの処方を低価格で行う女性用のクリニックなどの完備不足について議論されないのは、女性に基本的な権利が与えられていないように映ります。
    検査の結果を知り、自身の妊娠生活、家族生活を含む「人生の選択」を自分でするということは女性の基本的権利ではないでしょうか。

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