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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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(この記事は、2017年1月6日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

事務長「先生、もう少し外来を診ていただかないと困るんですが…」
医師「えっ、午前中だけで20人も診たのに?」
事務長「他の先生は、30人は診ていますよ」
医師「分かりました」(1人にかけられる時間が5分もないじゃないか…)

日本の医療関係者にとっては言わずもがなだろうが、出来高払いはその日の「患者数」と「診療行為」で医業収入が決まる仕組み。そして、3分診療が生まれる大きな原因の1つになっている。日本は外来単価が安いので、数を稼がないと経営が回らないという事情があるからだ。

医師「では、お薬が切れる1カ月後にまた来てください」
患者「あの…、来る頻度をもう少し減らせませんか?」
医師「きちんと経過を見ないといけませんから。すみませんが、また来月いらっしゃってください」
患者「分かりました」(ずっと薬もらいに来ているだけなのに…)

安定している患者に半年~1年の処方を出すことは、欧米では珍しくない。対して日本では1カ月処方で再診する場合が多い。これも突き詰めると、再診頻度を増やさざるをえないという、出来高払いによる経済的インセンティブの影響が強い。

出来高払いは無用な医療行為を誘発する傾向が強く、医療政策の議論の中ではあまり人気がない。1人の患者について(外来頻度や医療行為の程度に関わらず)毎月一定額の収入がかかりつけ医に入る人頭制、入院頻度や血糖コントロールなど患者のアウトカムに応じて収入が増減するPay for Performance(P4P)が、まだ“マシ”な支払方法として各国で試行・導入されている。

人頭制では、医師はできるだけ患者にかかる医療コストを抑えたいため、患者の健康を保ち受診頻度を減らそうとする。P4Pでは、入院頻度を減らすといったアウトカム改善のために、必要に応じてきめ細かいケアを提供するインセンティブが働くというメリットが考えられる。

しかし、人頭制もP4Pも、思ったほどの成果は上げていない。人頭制では常に過少医療の可能性が議論になる。米国ではP4Pが盛んに試されているが、導入しても患者アウトカムの改善には寄与しなかったという報告ばかりだ。一方で、出来高払い、人頭制、P4Pをうまく組み合わせると、余計な医療行為の提供が減り、医療コストが下がったという報告もある。

それでも一つ確実に言えるのは、「出来高払いだけにした方がよい」という話は聞かないということだ。少し極論かもしれないが、「健康でいたい」という人々のニーズと「患者が健康にならない方が儲かる」出来高払いは、構造的に反りが合わないのだ。日本もそろそろ、3分診療から脱却しなければならない時が近づいているのかもしれない。

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