(この記事は、2016年2月26日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
米国で働く医師には、同僚の医師が医業を遂行する上で問題を抱えていると判断される場合、それを報告する義務がある(州によって多少ニュアンスは異なるが)。例えば、朝からお酒のにおいがしていて遅刻が多い、ここ最近物忘れがひどく重大なミスを何度かしているといった場合が報告の対象になるだろう。
報告先は、病院で働いていれば、当該医師の上司や科長が一般的だ。報告の時点では「疑い」レベルで構わない。病院によってプロセスは異なると思うが、報告を受けた人は非公式および公式にそれを調査する。その結果、もし本当にその医師に問題があるとされれば、産業医の受診、治療プログラムへの参加といった介入へとつなげていく。その時点で、州の医師免許審議会に連絡が行き、必要に応じて免許の一時停止などの措置が取られる。
アルコール依存を例にとると、ほとんどの州で医師用の治療プログラムがあり、医師免許維持の条件として参加を求めることが多い。プログラムでは、不定期で抜き打ちの検査があるなど、治療経過がかなり厳しくチェックされ、結果が医師免許審議会に報告される。治療に繰り返し失敗したり、検査をきちんと受けないと、医師免許失効もあり得る。
こういった規定があるのは、医師の職責の重さ故だ。職責を果たせない医師を看過することは、患者のために許されない。
もっとも、同僚による監視と報告がうまく機能しているかというと、実際はそれほどでもないらしい。報告を怠ったことによる罰則規定はないので、報告義務は倫理的義務にとどまるし、何より友人でもある同僚を、「疑い」のレベルで報告するのは気が引ける。もし自分が報告したと分かったりしたら…、「疑い」が間違いだったりしたら…、後々大変だ。
上司にしても、自分の部下に向かって「君は問題があると聞いたけど、実際はどうなの?」なんて聞けないし、そういった事柄の扱いに慣れていないことも多い。病院としても、ただでさえ足りない医師を失いたくはない。報告があってもうやむやにされることは十分考えられる。
どこまで厳しくすべきかは考えものだが、問題のある医師をスクリーニングする制度や手続きはあってもいいかもしれない。例えば、毎年の健康診断のような形で。と言っても、アメリカの医師に健康診断を受ける義務はないのだが(だから不養生もよくある)。
この「問題」、日本にも当てはまると思うけど、どうなのだろう?