(この記事は2015年5月号(vol116)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)
米国で病院に勤める医師の働き方は、日本と大きく異なります。今回は、主に内科の入院診療を担当するホスピタリスト(病院=ホスピタルにずっといるので、こう呼ばれる)の一般的な働き方を紹介します。
ホスピタリストは、ほとんどの場合外来診療には携わらず、主治医として入院患者を受け持ちます。医師一人あたりの患者数は施設によって違いますが、メイヨーでは12-14人くらい、多い所でも20人くらいです。一日12時間シフトで7日間働き、7日間休む、という形態を取ることが一般的です。例えば、月曜から日曜まで7日間働いたら、その翌週は休み、という具合です。12時間を7日で計84時間なので、労働時間は平均すると週42時間です。夜間は夜勤担当の医師がいるので、担当患者の急変があっても、呼ばれることはありません。
もちろん、他の役職に就いている場合など、休みの週に会議が入ることはありますし、また休みの週に研究をする医師もいるので、全員が週42時間しか働かないわけではありません。そして、夜勤も回ってきますので、シフト制ならではの大変さもあります。ただ、義務としての臨床業務は、週40時間に近いところできちんと守られています。
日本の勤務医の働き方とは、驚きの違いです。日本では受け持ちの入院患者に加え、週2回など外来を持つことが多いですし、主治医制を取っている病院も多く、夜間や週末も含めて呼び出されることがあります。労働時間の長さもさることながら、気の休まる日がなく、休日でも遠出できないというのが精神的に辛いと聞きます。
こういった状況は、一部では改善傾向にあるという話も聞きます。また、研修医がたくさんいる教育病院では、患者の応対を主に研修医が担ってくれるので、上級医はそこまで大変ではない場合もあります。さらに、先進的な病院ではチーム医療制を取り、夜間の呼び出しがないところもありますが、そういったところはまだ少数派な印象です。総じて、日本の勤務医の働き方は、現時点ではかなりきついものである、と考えてもらって差し支えありません。
米国の勤務医が、普通の労働者のように労働時間を守って働くことができる最たる理由は、そうしないと医師が集まらないからです。米国でも医師は不足しており、特に入院診療を担当する内科医は人手不足です。米国の医師の労働市場は流動的で、医師はより自分に合う職場、より好待遇な職場を求めて移動することを苦にしません。そのような状況で、過労を強いる職場には人は集まりません。逆に、日本のような労働環境で医療が成り立っているのは、ある意味で不思議でもあります。
そういった日本の環境下で診療を続ける医師には敬意を払う一方で、今後の日本の医療のためには、きちんと労働環境を整備することが必要だと感じます。そのためには、医師も人間であり労働者だという事実を、患者さんに理解してもらう努力を重ねていくことも大事です。