(この記事は2014年9月号(vol108)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)
米国内科専門医機構財団が主導する”Choosing Wisely(賢く選ぼう)”というキャンペーンをご存じでしょうか? このキャンペーンでは、各分野の専門医が集まる学会が”無駄と考えられる医療行為”をリスト化して公開します。既に60ほどの学会が参加し、それぞれ5-15項目ずつ”無駄な医療行為”を選定しています。
例えば、米国内科学会は以下の5つを挙げています。▼無症状かつ心臓発作を起こす可能性の低い人に対する運動負荷心電図試験 ▼非特異的な腰痛におけるX線やCT、MRIなどの画像検査 ▼神経学的所見を伴わない単純な失神における頭部CTやMRI ▼静脈血栓塞栓症の疑いが低い場合の、第一選択としての画像検査(血液凝固検査を先に行うべき) ▼心呼吸器系の症状や既往がない場合の、手術前の胸部X線検査
米国では、医療行為の実施に地域や施設ごとに大きなばらつきのあることが明らかになっており、無駄な医療行為が広く行われているという認識が高まっています。また過去の研究から、約30%の医療費は無駄な支出と考えられており、際限なく増大する医療費が国家の喫緊の課題となっています。これらの背景のもと、Choosing Wiselyは徐々に認知度を増しています。
上のリストでは画像検査が多くを占めていますが、”無駄な医療行為”には、血液検査や処方薬なども含まれます。例えば小児科学会は、明らかなウイルス性呼吸器感染症(風邪など)に対して抗生物質を処方しないよう呼びかけています。リストを公開することで、医師への啓蒙や教育を促すと同時に、患者側にも”無駄な医療”を知ってもらうことで、より賢い医療の選択に生かしてもらうことを狙っています。また、このキャンペーンを通じて”無駄な医療”が日々行われていることへの認知度をさらに高め、社会的な議論を活発化させることも目的としています。
たくさん検査して薬を処方してくれるのが良い医者、と考える患者さんは米国にも多くいます。医師としても、検査や処方をすればするほど収入が入るのが一般的です。必然的に、日本でも米国でも、医療行為は過剰に実施される傾向にあります。本キャンペーンはそうした構造的な問題に一石を投じており、過剰に提供される医療行為の抑制を医師側が主導しているという面でも、画期的な動きと言えるでしょう。
“無駄な医療”のリストは、日々の医療行為を規定するものではなく、医師と患者がより良い選択をするための一助となるべきだ、と機構財団は記しています。今後の課題は、集められた知見をどのように実際の医療の現場に反映させていけるかです。上に挙げた内科学会の5項目も、患者さんが一見して理解できるものは少なく、実際に医師にそれらの検査を勧められたときに「その検査は不要なのでは?」と言えるとは思えません。患者さんが無駄な医療を受けない仕組みづくりを、医師と患者が一緒になって考えることが求められています。