(この記事は、2014年4月30日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
最近、私が主著者の論文がBMJ誌に掲載された。
心筋梗塞で夜や週末に受診した患者と、平日の昼に受診した患者を比べると、前者の方が5%ほど死亡率が高く、ST上昇型心筋梗塞に対するカテーテル治療の開始時間も15分ほど遅れるというメタアナリシスだ。メタアナリシスの専門家である私の上司と、医療システムの研究に詳しい循環器医が、メンターとして研究をサポートしてくれた。
論文の読み込み、データ集めや解析などを実際に担当したのは私と他のチームメンバー。しかし、研究デザインや解析のアイデアなど、細部にわたるメンターの指導が研究の成功に必要不可欠だった。
論文が発表されると、全米紙やテレビなど、多くのメディアから取材依頼を受けた。2人のメンターは、「これはお前の研究だから」「今後の経験になるから」と、メディア取材の全てを私に任せてくれた。私は、2人のメンターの信頼と期待に応えるべく、鏡の前で一人、練習を繰り返した。
友人にこの話をすると、「なかなか珍しいことだ」と言う。米国の幾つかの研究施設で働いた経験がある彼によると、研究業績を努力の量に応じてフェアに、かつ寛大に分配してくれる環境をメイヨーの外で探すは、かなり難しいそうだ。
メイヨーでは、少なくとも私の周りの指導医は下の医師を育てることに力を惜しまない。部下の能力を信じ、高い水準の期待を明確に伝え、やる気を引き出す。部下が主体的に努力できる環境を整え、結果を出すために必要なサポートを提供する。結果が出た際には、部下に花を持たせ、努力を称賛する。部下の成長を第一の目的としてくれる、そのような環境で人は伸びると感じる。
打算的な言い方になるが、指導医にとってもその方が長期的に得なのだろう。そのように育てられた部下は、上司への恩を忘れない。部下の活躍は自分の実績に加わるし、職場を離れた後も協働して研究するなど、自らをさらに高めるネットワークの形成につながる。
もっとも、利得を目的として行動する上司の下では部下は育たないだろう。そのような打算は、部下に簡単に察知されるはずだ。
今回、BMJ誌に論文が載ったことは、とても幸運だと感じる。その一方で、幸運を得る機会は環境に左右されるとも実感する。自らを高められる環境に身を置くことは、幸運を得る確率を高めるのだ。私が人を指導する立場になったときには、そのような環境をつくっていきたい。