(この記事は、2014年2月17日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
ある女性患者が、6カ月前に8%だったHbA1cを12%に悪化させてやってきた。うつ病もあり、以前から治療が難しい患者だったが、ここまで一気に悪くなったことはない。看護師の予診では、本人は薬を飲んでおり、なぜこんなに悪化しているか分からないという。
30歳代のその女性は、チェーンの飲食店で働いている。未婚で中学生の娘が1人。娘はメキシコで祖父母と暮らしている。祖父母には安定した収入がなく、生活が厳しいため、メキシコに送金している。
診察室に入ると、少し派手目の化粧をした彼女の表情はどことなくぎこちない。「調子はどうですか」と聞くと「特に問題ない」と答え、「薬は飲んでいますか」と聞くと「きちんと飲んでいる」と答える。少し間をおいて、検査の結果を説明し、「本当のことを教えてほしい」と言うと、ようやく真実を語ってくれた。
経済的に厳しく、薬が買えない。自分の健康のことは二の次で、時に自暴自棄になる。気分が落ち込むときは、薬を飲む気がせず、ジャンクフードばかり食べている。通訳を介して涙ながらに話してくれた。
原因がうつ病の悪化ではないことを確認した後、私はこう続けた。「あなたが働けなくなったら、娘さんにも送金できなくなる。あなたが健康でいることは、娘さんにとっても最も大事なことです」。私の言葉に同意した彼女は、糖尿病の治療について少し前向きになった。
彼女はメトホルミン1000mgを1日2回内服していたが、できればもっと安い薬を処方してほしいと頼まれた。大手のドラッグストアでは、1カ月分なら4ドル、3カ月分なら10ドルと非常に安く買える処方薬がある。彼女にはそのリストにある薬しか処方していなかった。メトホルミンもそのうちの一つだ。しかし彼女は、1カ月分は4ドルより高いという。薬局に電話で問い合わせると、ミネソタ州では1000mgは1カ月で9ドルするとのことだった。5ドルの違いが、彼女には大きかった。
そこで、メトホルミンを850mgに変更し、他の1剤も9ドルから4ドルのものに変更、さらに必要度の低い1剤を中止した。彼女には3カ月分を1回で支払うことは難しかったが、長期的に見れば安くなると説得し、3カ月分の処方箋を書いた。これで1カ月当たり15ドルほど安くなる。
彼女は感謝の意を示し、定期的な服薬を約束してくれた。彼女の血糖値が良くなることを願いながら、医師として自分ができることの少なさを、歯がゆくも思う。
こういった金銭的な問題を抱えている患者はとても多いですね。彼らの貧困度は我々の想像を絶することがあります。ただし、ミネソタはわかりませんが地域によっては、スーパーの薬局が糖尿病や高血圧に必須の薬剤を無料で提供しているところもあります。わたしのいる地域のpublixというスーパーはmetformin, lisinopril, amlodipine,や抗生剤のamoxicillin, ciproなどよく出る薬はただです。http://www.publix.com/pharmacy/Free-Medications.do
他にも糖尿病関連の薬はただとかいうスーパーもhttp://www.harristeeter.com/files/docs/2012_genericsavingsclubquickreference_v2.pdf
本当に助かります。
三枝
三枝先生、コメントありがとうございます!スーパーの薬局で薬剤を無料に提供しているところがあるとは知りませんでした。それは素晴らしい仕組みですね。一瞬どこかから補助をもらって実施しているのかと思いましたが、ホームページを見るとそうでもないような?患者を引き付けるための、地域戦略の一環なのでしょうか?面白いですね。