(この記事は、2012年12月5日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
NYでのレジデンシーを終え、7月から予防医学のフェローとしてミネソタのメイヨークリニックにいる。
メイヨーは全米で最も優れた病院の一つに数えられ、医療関係者ならその名を知らない人はいないだろう。1863年にW.W. Mayoがロチェスターで始めた診療所を二人の息子が引き継ぎ、ここまで育て上げた。
決して都会とは言えないこの地で何故このような病院ができたのか。その理由の一端をオリエンテーションで垣間見た気がした。
“The needs of the patient come first.”メイヨー関係者の誰もが暗唱できるメイヨーのコア・バリューである。オリエンテーションや講義でも毎回必ず出てくる。100年超の歴史の中でも、メイヨーのコア・バリューは揺らいでいないことを皆が強く信じている。オリエンテーションが終わる頃には、私も含め多くの新規採用者がこれを心に刻み、自分の提供するサービスにもその理念を取り込もうとするようになる。
叩き込まれた概念は他にもある。メイヨーのロゴにあしらわれている3つの楯が意味する、患者ケア、教育、研究。それらがメイヨーを支える柱であること。そして、コストあたりのアウトカムとして定義される「バリュー」を最大化させることが我々の使命だということである。
初期研修時代を過ごした沖縄を思い出した。沖縄県立中部病院とメイヨーは、ともに全国屈指の教育病院だ。中部病院では「5年後に離島で独立して診療できるよう育て上げる」という目標が強く意識され、研修医にも共有されていた。またそれは、過去から現在に至るまで、沖縄で必要とされてきた実践的な理念でもあった。メイヨーも、Dr.Mayoが地域で必要とされていた医療を提供したことに始まり、今もロチェスター地域の医療の根幹を担っている。
この理念は恐らく、一朝一夕で形成されるものではない。地域が必要とするサービスを、度重なる変化にも順応し提供し続けることによって磨き上げられてきたのだろう。
職員一人ひとりに理念が浸透し、日常のケアに反映されるようになることで、組織としての強さも生まれる。中には特定の価値観を刷り込まれることに違和感を覚える人もいるだろうが、職場でシニカルな態度を見せることはない。それが職業倫理として期待されているからだ。
「あなたたちは、メイヨーを代表する一人として働くことになります。ぜひ頑張ってください」。この言葉に込められた強い自負心に、私は一種の畏れのような感覚を覚えた。