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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

今日のニューヨークは散歩日和。気温も20℃くらいと快適で、午前中から家族でハイラインに散歩に行ってきました。これは昔の貨物用線路の残りを公園道として整備しなおしたもので、今ではニューヨーカーに人気の散歩道になっています。地上10mくらいの高い位置にあり、ハドソン川も近いので風が強いですが、見晴らしも良く今日のように天気がいい日はとても気持ちいいです。

南は10th Streetから始まり、北は30th Streetまで延びていて、そんなに長くないので端から端まで歩いても一時間はかかりません。今日は家族と一緒だったので、14th Streetから入って10thまで下がり、16thまで上がったところで終わりにしました。と、まるで常連のように語っていますが、ハイラインを歩いたのはNY生活も三年目を迎えて今日が初めてでした(失)

ハイラインを降りた後は、ハドソン川沿いのBakehouseというレストランで昼食。Smoked Salmon BenedictとBraised Short Rib Hashを注文。Smoked Salmon Benedictは予想通りでしたが、Braised Short Ribの方は食パンの上にShort Ribと肉の風味がよく効いたソース、半熟卵が乗って、美味しかったです。

昼食の量がやや物足りなかったので(NYでブランチを頼むと大抵は物足りない結果に終わります。)、Il Cantuccioというベーカリーでパンとコーヒーを。Pan di Rameriniというレーズンとローズマリーのパンが風味がよく新しい味でした。焼きたてでなかったのがちょっと残念。

その後、散歩がてらWest Villageを北上していくと、St. Vincent Hospitalが見えてきました。この病院、160年の歴史があり、沈没したタイタニックの乗客や9.11の被害者などを治療するなど地域では有名でしたが、2010年4月に潰れてしまいました。Lower ManhattanのWest Sideにある唯一の総合病院でしたが、赤字経営を建て直せず、最後には約7億ドルの負債を抱えて倒産しました。

米国では病院も、地域の需要があろうと赤字であれば比較的簡単に潰れてしまいます。日本だと、病院が潰れるというのは大変なことですが(もちろん米国でも、地元の人にとっては一大事です。)、最近の潮流を見ていると(厚生労働省の病院集約化の思惑も絡まり)、米国のように潰れる病院が次々と出てくるのも時間の問題ではないでしょうか。

St. Vincentの閉鎖によって、その余波で私の働く病院にも患者さんが流れ、外来に「この前までSt. Vincent病院で診てもらっていました」という人もたくさん来ました。St. Vincentからのカルテを自ら持参し「これが私の病歴で、薬はこれこれを取っています、これが最近の検査結果です」などと教えてくれる患者さんだと嬉しいのですが、そう上手くいかないこともあります。「高血圧の薬を飲んでいたけど、一ヶ月前に切れてしまった。名前は忘れてしまった。」とか「心臓が悪いと言われ、カテーテル検査を受けたけど結果は覚えていない。」など、どうしていいか困ってしまう場合もしばしばでした。その場合カルテを取り寄せるなどする必要がありますが、患者さんにお願いしても上手くいかず、こちらで取得するにも日数がかかるなど、大変な場合もありました。

病院が閉まることによる影響は、特に低所得者層などの社会的に恵まれない人たち(NYでは特に、黒人やヒスパニック系などにあたります。)に顕著に現れるように思えます。お金のある人はPrivateの保険を持ち、普段からPrivateの医者にかかっていることが多いからです。(Privateの医者は、St. Vincentが閉まっても他の病院と提携を結び直すことで、診療の継続が可能です。)

病院の集約化により効率化が図られる部分もあるとは思います。市場メカニズムにのっとれば、非効率的な経営をしている病院、質が悪くて人気のない病院は撤退してもらう必要もいくらかはあるのでしょう。その一方で、病院が閉まることで診療の継続性が絶たれる、アクセスの悪化により受診の機会が減るなどによる影響を考える必要もあるのではないでしょうか。すなわち、健康の悪化や医療の分断の結果、「集約化に伴い社会的コストがよりかかるようになる可能性が排除できない」ということです。そして、これらが特に社会的弱者に強く影響することは、医療という社会制度資本の最適配置を考慮するうえで、忘れてはならない視点だと私は思います。

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