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川名正隆

ブログについて

私の受けたアメリカの医学教育の話、スタンフォードでの内科レジデント生活、 Physician Scientistを育成するシステム、シリコンバレーの学際的環境について、といった内容で情報発信できればと思っております。

川名正隆

東京に生まれ育つ。小学校卒業後1年半をテネシー州で過ごす。東京大学教養学部を卒業後再渡米し、ブラウン大学医学部を卒業。現在スタンフォード大学病院で内科レジデント、2012年より同大学循環器内科フェロー。心筋症・心不全などの心筋収縮異常の病態メカニズムに興味あり。基礎研究と臨床のバランスの取れたキャリアを模索中。

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前回の投稿では、学生を臨床に参加させるには責任の所在と教える側の教育責任の使命感と信頼関係が存在する環境を作ることが重要であると書きました。こう書くと、参加型臨床実習の環境を作るための教える側の負担ばかりが強調されてしまいますが、逆に学生が臨床現場で貢献できることはないのでしょうか。「学生だから」というだけでお客様(お荷物)扱いするのではなく、うまくモチベーションを上げることで貢献してもらえることが沢山あると思います。

病棟における学生の特権は、患者さんと話したいだけ話し、カルテをしらみつぶしに読んで、わからないことを徹底的に調べられるという”無限の”時間を持っていることです。特に3年生のコア実習の間は、教育的に複雑な症例を担当させるので、その際にインターン・レジデントの何倍もの時間をかけて問診をすることで新しい情報を仕入れてきたり、膨大な量の基礎データをインターン・レジデントと一緒に調べて整理する手伝いや、他の病院のカルテが必要な場合はそれを送ってもらう手はずを整えたりと、与えられた時間の余裕をフル活用しながら基礎データを収集してチームを助ける機会が沢山あります。前回書いた通り、優秀な学生のノートは他のスタッフが参考にできるので大きな助けとなります。また禁煙や食事の塩分制限運動などの生活指導は、医師が行うのはもちろんですが、学生がさらに詳しく丁寧に説明することで再強調する効果が見込め、慢性疾患の治療の核心的な部分に触れることができます。他にも薬の服用のコンプライアンスを高めるため、心不全の患者さんの血圧や体重管理を支援するために、わかりやすい表や指示書を作ったりすることも、非常に重要なinterventionでありながら学生でも簡単にできることなので積極的に手伝ってもらっています。こうした「チームのために」行うことの中にはファックスを取ってくるといった雑用(scutworkといわれます)と言えることも含まれることもありますが、患者さんのケアに必要なことであれば、学生にその患者さんに対してownershipを持ってもらう(自分の患者であるということを自覚する)ためにも重要なことだと思いますので、個人的には特に問題ないと思います。3年生の間は少ない数の患者さんを徹底的に調べて話して理解するのが目的ですから、その過程で直接患者さんのケアに関わるチャンスはたくさん転がっているはずですので、そうしたタスクを自ら探し当ててもらうように仕向けるのが教える側の役割となります。

回診中に疑問・不明な点が出てきた時は、学生が次の日までにそれを調べてきてレジデント達が教えてもらうということもよくある話です。こうした双方向のティーチングというのは、学生のリサーチ能力を試すだけでなく、レジデント達も新しいことを学ぶ機会が増えます。学生の方もチームに新しい知識量を増やすということに一役買えるわけであり、happyな医療チーム運営を行うには不可欠な作業です。このミニレクチャーの手法は回診中によく使われますが、チームをリードするレジデント(またはアテンディング)はランダムにトピックを与えるのではなく、なるべく目の前の患者さんの治療に直結したclinical questionを考えるのが重要です。学生はそれを調べてくることで治療方針の決定に参加することができるわけです。

アメリカの医学生は、上に挙げたようなタスクを非常に率先して行う姿勢が多くの人に備わっており、多くの学生は「他にやることない?」と常に自分のできる仕事を探しています。これは、医学部に入る前の医療ボランティアの経験に通じるものがあると思いました。「チームワーク」という項目が実習の評価項目にあるからだ、というのはその通りですが、それ以前に学生にもできるレベルの手伝いというのが、実は非常に重要な治療行為の一部になということに気づかせると、学生のモチベーションも上がってさらに手伝ってくれるようになり、良い循環になって行くのだと思います。(続く)

6件のコメント

  1. 本当にその通りだと思います!学生に上手くチームメンバーとして機能してもらうと、チーム全体が活性化する感じがありますよね。インターンも学生に触発され、自分で文献を調べたり、ティーチングに貢献してくれたり、チームダイナミクスが上手くいっているときには、毎日の診療もより一層楽しく感じます。

  2. たしかに学生がインターンやレジデントに与える影響というのも大きいですよね。
    学生の方が内科以外の領域のことに関して詳しかったりすることもあり、色々と学ぶこともあります。
    なので個人的には、医療面でも、チームが良く回ってくれるためにも、学生さんは重要な存在だと思いますね。

  3. 4月~大学病院に勤務してていますが、医療現場での人の多さに面食らっています。
    BSL、クリニカルクラークシップ、初期研修医、後期研修医、それ以上、、、
    ご指摘のように、彼らもひっくるめて有機的なチームが作れれば、全員の負担も軽減するのでは?
    とも思います。
    また、彼らの教育が数年後には、自分の仕事量やら
    地域の医療レベルやらに直結すると思うと、
    意義のあることだと思えます。

    • コメントありがとうございました。
      日本の病棟でのシステムはだいぶ異なるようですが、上から下までがお互いに助け合えるチーム作りができれば理想なんでしょうね。
      良い学生・医師を育てるということが自分の仕事に直接的にも間接的にも関わってくるというのは仰る通りだと思います。後進の指導というのは、教育機関・教育病院で働く医師に与えられた使命だと思います。

  4. 現在Harvard Medical Schoolで臨床実習中の医学部6年生です。貴重な記事、ありがとうございます。参考にさせていただきました。こちらでは毎日のようにプレゼンのネタを探し、実習後に調べて翌日プレゼンする、という生活を送っています。プレゼンの回数が増えれば話し方も上手になり、知識も増え、そして何より時間をたっぷり使って患者さんのマネジメントに貢献できるので、本当に優れたサイクルだと思っています。日本でもこういった機会は数多くありましたが、こちらでは珍しくないsub-Iのシステムは日本には存在せず、今後は最終学年でsub-Iに準じた実習も導入されればと個人的に思っています。

    • コメントありがとうございました。私の周りにも日本からの実習生が時々来るのですが、話を聞く限りでは、HMS Exclerkさんのようにやる気のある学生さんがさらに踏み込んで実習できる環境と、努力した分が報われるようなシステムが日本の臨床実習には必要なのではと思いました。HMSでの実習、頑張ってください。

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