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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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私には、これといってアメリカに臨床留学した特定の理由がない。それは漠然とした憧れだったかもしれないし、日本で臨床を続けることの閉塞感からの逃避だったかもしれない。英語を不自由なく使いこなせるようになるための利便的手段であったり、はたまた当直が少なく給料の良い医者生活を送るための功利的手段であったりしたかもしれない。別の見方をすれば、大小さまざまな複数の理由があって、最終的に渡米という結論を出したと言えるかもしれない。前向きな理由を探せば、それは日本の医療提供体制を客体視するための材料探しだとか、多様性に溢れる社会での医療の実践と検討だとか、日本で発展途上の分野である医療の質改善プロセスを学ぶためとか、それらしい答えはいくらでも見つかる。

私にとって、臨床留学した理由を述べるというのは現在進行形の思考作業である。過去の一時点に、留学する前に構築した自分なりの論理構成がある。いわゆる臨床留学指南書に見られる「目標を明確に持って、入念に準備」したものだ。自分としてはそれなりに理由付けをして、渡米した気持ちでいた。しかし留学後の経験により、それらの一部は消失し、修正された。その論理は一旦大きく瓦解し、新たな要素が加わり、ゆるく結合し、再構築されていった。ある目標は単なる建前でしかなかったことに気づき、ある目標は経験を元に再強化され、また新たな出会いによって別の目標が加わった。そしてそのプロセスは今も続いている。

もちろん留学以前より確固たる理念と意思を持って渡米し、それを継続して実現する人たちがいる。私の周りにも何人もいる。私はそのような人をすごく尊敬しているし、もし可能であれば、自分もそうありたいと思うこともある。私は今でも小児科が一番楽しいと信じているし、救命救急や集中治療はエキサイティングだと思うし、外科医がカッコイイと思っている。でも私はそれらの道を選ばなかった。それには恐らく理由がある。直感的なものかもしれないが、恐らく重大な理由がある。それは自分には分かるが、明確に言葉にできないようなものである。言葉にすると少し重みを失うような何かだ。

そのような「何か」に従うことを恐れない。たとえそれが当初の「理由」と全く違うものであっても。臨床留学した理由を突き詰めると、そのような「何か」に突き動かされた結果だったのかもしれない。それは最初から明確である場合もあるし、後から見てその意味に気づくこともあるだろう。20年先にその意味に気づくことができればいいとさえ私は思っている。点と点をつなぎあわせることが出来るのは後からだけだ。

個人的には、なんとなく臨床留学したいと思っていれば、それが十分な理由だと思う。それが強い動機と意欲につながり、試験で良い点数を取れ、様々なコストを勘案した結果、実際に留学するかどうかは別問題である。明確な目標や具体的な計画を立ててからでないと挑戦するべきじゃない、とは思わない。少なくとも私は、渡米した時点で具体的な人生計画などなかったし、今もない。5年先にどこで何をやっているか分からない。渡米したことで失ったものもあるかもしれないが、現時点でそれを考えることにあまり興味はない。

このような考えはあまり一般的でないかもしれない。医師としての「社会的な成功」という非常に限定的かつ曖昧な一面を最終的なゴールに据えた場合、このアプローチが成功するかどうかは不明である。しかし、臨床留学によって得られた価値は主観的なものでいいはずだ。本人が満足しさえすれば、当初の理由がなんであれ、留学は価値あるものだったに違いない。

最後に、この記事を読んでかの有名なスティーブ・ジョブスのスタンフォード大卒業式のスピーチを思い出した方に伝えたい。確かにコンセプトは一部パクった。しかし、この作品は私のオリジナルである。

4件のコメント

  1. 病院建築を専門にしている私にとって、聞いてみたいと思っていたことでした。
    病院新築あるいは増築の打ち合わせで「アメリカのような…」と例示する理事長先生や院長先生が意外と多いのです。ちなみに建築などのデザインだと、ヨーロッパのほうが印象が強いのですが、医療は圧倒的にアメリカのほうが多いように感じます。

    • なつこさん、コメントありがとうございます!確かに、「アメリカのような…」というコメントは良く聞かれそうですね。多分その場合、「アメリカの(超有名なあの病院の)ような」という意味なのではないでしょうか。医療従事者の中で「アメリカ」が、良い意味でも悪い意味でも特別な対象であることを示唆していると思います。

  2. 楽しく読ませていただきました。

    健康長寿は古来より為政の究極の目標でした。
    私は、少子超高齢化社会に突入し、かつ厳しい財政状況においては、それに加えて、いかに「お金をかけずに」健康長寿を得るかが、日本人の英知を結集して追求すべき課題だと思います。

    その解決策を見出せれば、人類にとって普遍的な価値を有し、全世界に多大な貢献を果たし、歴史に刻まれる偉業になると確信しております。答えは予防医学でしょうか。

    先生のご活躍を期待しております。

  3. ありがとうございます。全くの同感です。予防医学で用いられるアプローチは、今後ますます重要になってくると思います。それに加え、(米国人と比較して)日本人は文化的に予防医学を効果的に実践していると思います。それをさらに普遍化して応用することで、日本が世界に貢献できる可能性が十分あると個人的には思っています。

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